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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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白熱にして狂熱4

 ラルルカはばつが悪そうなまま、次の目的地に向かうべく影の下に入り始めた。

 リリベルが彼女にどこへ行くのか尋ねると、彼女はさすがに黄衣(おうえ)の魔女であるリリベルの言葉を無視する訳にもいかなかったのか、ぶっきらぼうながらも答えてくれた。


「この国でアタシができることはもう無いから次の国に向かうのよ!」


 彼女はルミシアの国民には既に興味が無いようだ。まだ踏み鳴らす者(ストンプマン)の足踏みの影響から脱したとは言い切れないし、住む家をなくした彼らが魔物に襲われる可能性もある。

 彼らの命を救ったらそれっきりで、後のことを全く考えていない。


 本当に人間を助けたいと思っているのか甚だ疑問だ。


「さて、この人間たちをどうしてやろうかね」


 リリベルは腕を組んで悩んでいたので、彼女の期待に応えるため、すぐに手当てが終わった人たちのもとへ行く。

 踏み鳴らす者(ストンプマン)やラルルカの魔法を受けたから無理もないが、彼らは未だ怯えている様子だ。


 彼らの中から気がしっかりしていそうな者に声をかけ、最寄りの町の場所を聞いた。

 できれば巨神の進行方向に無い場所が良い。


 すると南へしばらく行くと小さな村があると言ってくれた。

 そこなら巨神の足踏みの影響も無いだろうか。万が一無理な方向転換でもして南の村に行っても良いように、踏み鳴らす者(ストンプマン)が先に進むのを確認するまで、村の手前でしばらく待機するよう彼らに指示する。


「リリフラメル。彼らを魔物から守ってくれるか? 踏み鳴らす者(ストンプマン)が先に進むまでの間で良い」


 リリフラメルの正義感があれば、きっと彼女はこの生き残った民たちを守り通してくれるはずだ。

 不遇な目に遭った者たちの気持ちを誰よりも理解できるであろう彼女なら、きっと彼らに尽くしてくれるだろう。


 リリフラメルはもちろん承諾してくれた。






 リリフラメルたちと別れ、俺とリリベルは踏み鳴らす者(ストンプマン)が向かっている東側へ先回りする。

 ルミシアの東に位置する小国ロンドストリアはここからそう遠くは無く、馬車で1日かければ到着するとルミシア国民の1人が教えてくれた。


 リリベルの魔力は程々に回復したようで、移動しようと思えば彼女の魔法ですぐにでも移動することができる。


 だが、彼女は俺と共にロンドストリアへすぐさま移動するつもりは無いようだ。

 ロンドストリア国民の命が危ういのだから、早く移動した方が良いと伝えたのだが、珍しく彼女は拒否した。

 理由を聞いても答えてくれないその理由は、何となく分かる。


 リリベルは俺と2人きりの時間ができたことを喜んでいた。彼女にとっては久し振りの心癒やされる瞬間なのだ。

 その至福の時をもうしばらく楽しんでいたいのだろう。十中八九合っているはずだ。

 彼女がそのことをあえて口にしないのは、俺がリリフラメルと同じく、助けられるはずの命をみすみす無視することなんてできない(さが)だからだ。


 リリベルが正直に自分の欲望を伝えれば、俺は2人きりの時間よりも他人の命を優先して欲しいと言う。彼女との時間は何時でも作れるが、他人の命は1つしか無い。どちらを優先すべきかは考えずとも分かる。

 そうすれば俺の言うことを何でも心地良く聞こえるという彼女は、俺の提案を受けざるを得なくなる。


 彼女には見知らぬ人間が何人死のうとも興味は無く、俺と過ごす時間の方が大事だと言っているようなものなのだ。


 だから俺はそれ以上彼女に、早くロンドストリアに移動した方が良いのではないかと提案することはできなかった。


 俺はあくまでリリベルの騎士だ。

 俺個人の想いを言葉に乗せて提案することはあっても、彼女に拒否の意志があれば俺は絶対に従う。


 時には主人を諫めることも騎士の責務であると、老いた騎士クレオツァラに説かれたこともあったが、今の彼女の表情を見るとどうしてもできない。

 そんなに儚げな顔で俺を見ないで欲しい。その表情を見せられたら俺は、良心を押し殺して彼女の幸せを優先することしかできなくなってしまう。


 馬車でロンドストリアへ移動することに決めて、そのまま馬を走らせると彼女は安心して馬車の揺れに身を任せてしまった。




 金色の髪を揺らすリリベルを肩で感じながらロンドストリアの方向を見ると、煙が立っているのが見えた。


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