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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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白熱にして狂熱3

 ルミシアの国民を手当した後、改めて皆で情報の共有を行った。


 夜のようなマントを着た彼女の名は、ラルルカという。

 彼女は夜衣(よるえ)の魔女の弟子であり、魔女会の決定に従ってここに来て、ルミシアの者たちを助けに来たと言うのだ。


 魔女は自分たちの欲望に忠実な者たちばかりで、他人の些事には全く興味が無いはずだ。実際に魔女会に参加した時、俺は彼女たちの自由さ加減をこの身で嫌という程味わった。

 彼女たちに団結の心はほとんど無いと言って良い。


 それでも魔女協会が表立ってわざわざ他人を助けようとした理由は、生物が死に過ぎだからとラルルカは説明してくれた。

 魔女は自分たちの欲望に忠実だとは言ったが、欲望を満たすためには多かれ少なかれ他の生物の存在が必要なのだ。


 血を操り他人の記憶を共有する元魔女のエリスロース・レマルギア。

 戦うことに喜びを得てあらゆる種族の戦争に参加する紫衣(しえ)の魔女、リラ・ビュロウネ・ヴァイレ。

 あらゆる男を魅了し、自分を愛した男を爆発四散させて芸術として昇華させる桃衣(とうえ)の魔女、ローズセルト・アモルト。


 どの魔女も他種族と密接に関わっていて、一方的ではあるが魔女たちには切っても切っれない関係なのだ。

 彼女たちは一見して世界を脅かす存在だが、彼女たち自身は世界に終わりを迎えて欲しくは無いのだ。


 だから魔女たち総出で人々を助け、踏み鳴らす者(ストンプマン)を倒そうとしているようだ。

 リリベルが緑衣(りょくえ)の魔女伝いに魔女協会から参集を受けたのは、彼女もこの騒動に参加させるためだったのだろう。




 しかし、ラルルカの手によって助けられた者は、ごく僅かであった。

 パッと見ても生き残った者は200人もいない。


 ラルルカから聞いた話によれば、この国の首都の人口はもう3桁程多かったと聞く。つまり巨神の1歩が、そのたった1歩が一瞬にして何万人もの命を奪ったのだ。

 実感など湧くはずも無い。

 ここは悲鳴も聞こえないし、恐らく壮大だったであろう都の姿すら無い。




 ラルルカはその原因がリリフラメルにあると言うのだ。

 彼女の能力か分からないが、彼女は影に人々を取り込むことができる。踏み鳴らす者(ストンプマン)が踏み込む寸前にできる影を利用して、人々を救おうとしたようなのだが、とても大きな魔力に邪魔をされて取り込み辛くなったと言う。


 大きな魔力の元がリリフラメルだと、ラルルカは糾弾する。


「それでどうなのよ! こいつが黄衣(おうえ)の魔女の命令で動いていたって言うなら、人間がたくさん死んだのはアンタのせいよ!」


 甲高い声が頭を響かせる。

 彼女の声に呼応してリリフラメルが再び、態度で怒りを露わにし始めたが、いつもより弱く感じる。

 リリフラメル自身の行動で人をたくさん死なせてしまったことを悔いているのだろうか。


 彼女を慰める言葉をかけてやりたかったが、適切な言葉が見つからなかった。

 手だけは先に彼女の肩に乗るかという寸前で、ラルルカの影が(うごめ)き始めたのが見えた。


「ラルルカ、人が死んだのはアンタの魔力が足りなかったからでしょう」


 影は人の形となり、ラルルカと同じように色が付き始めると、夜みたいなマントがはためく。

 髪は黒く、ラルルカよりも背は高いが、声からして若いことは確かだ。

 ラルルカと同じマントを羽織っており、夜衣の魔女かその弟子だろうとすぐに分かった。


「はあ? いきなり出て来て何よ、モズッキ! この国の人間全員を影に食わせるぐらいの魔力はあったわよ!」


 すると、今度はリリベルがあっと声を上げて、ラルルカに提言する。


踏み鳴らす者(ストンプマン)は、詠唱によって放出した魔力を吸収する性質があるみたいなんだ。私の魔力は今はほとんど無いのだよ」

「それは本当ですか、黄衣の魔女」

「うん、本当だよ」

「それならすぐに他の魔女たちに知らさなければなりませんね。なぜ貴方がここにいるのかは分かりませんが、貴方がルミシアにいることも伝えさせていただきますよ」

「どうぞ」


 モズッキという魔女は再び影に潜り込み、一瞬で姿を消してしまった。

 ほんの少し会話をしただけで、彼女は去ってしまった。


 モズッキとリリベルの話を聞いたラルルカは、ばつが悪そうに髪をいじっている。自分の非を認めるつもりは今のところ無いようだ。リリフラメルに一言あっても良いと思うが、彼女にその様子は無い。

 だが、これでリリフラメルにかける言葉が見つかった。


「人々が死んだのはリリフラメルの所為じゃない」


 リリフラメルの肩に手を置いて彼女をいたわるが、彼女はすぐに俺の手を振り払ってしまった。

 それどころか「ふん」と鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまう。彼女に親身になっているのに、この仕打ちはあんまりではないだろうか。


 だが、彼女の声や仕草はあまり刺々しく感じない気がした。


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