巨大にして甚大5
巨神が足を上げた後に残ったものには、踏みならした山がある。山は真っ二つに割れて無くなっている。
今となっては山ではなく谷に変わってしまったという方が正しいだろう。
大きく上がったいくつもの足が雲を破り、後はその足が落ちるのを待つだけになっている。
落ちた先にリリフラメルがいないかと心配で気が気ではない。
彼女は不死ではあるが、リリベルと違って失った身体は元に戻らない。先程見た壊滅した町の惨い有り様と同じ目に合えば、彼女には死と同義のことが起こると思っている。
失敗した。
彼女の怒りに身を任せさせるべきではなかった。
より近くで見える未だ全貌を明かさない踏み鳴らす者の姿は、思ったよりも俺の心を不安にさせる。
白いドラゴン、アギレフコと対峙した時と同じくらい、いや、それよりももっと強烈な恐怖を感じている。
死がすぐ隣にいるのだと実感する。
◆◆◆
馬車の繋ぎ場から何台もの馬車を借りた。
偉い兵隊から貰った短剣を見せたらほとんどの御者は大人しく従ってくれた。この国の兵隊は相当強い権力を持っているのだと感じた。
従ってくれた奴らは、なるべく他の住人を乗せて都を出るようにさせた。御者の奴らだって怖くて、逃げられる口実があればすぐにでも逃げ出したかったんだと思う。
逆に従わなかった奴らは、雇われの身だから、そいつらの勝手な判断で馬車を明け渡すことができないと断ってきた。
曇りとはいえ、日が昇ってきてるのに、夜みたいに真っ暗なこの異常な状況で、馬鹿なことを抜かしている。
空に大地があると思えてしまうような、デカブツの一部が首都の真上にある。それがもうすぐここに落ちてくるって分かりきっているのに、なんでどいつもこいつも悠長に構えているんだ。腹が立つ。
「早く乗って!」
荷馬車だろが貴族用の客車だろうが構わず町人を詰め込む。通常よりも重い物を急いで運ぶことになる馬には頑張ってもらうしかない。
頭上の音がすごい。
何が原因で音が鳴っているのか分からないけれど、とにかくすごい地響きのような音がずっと鳴っている。
アレがどのぐらいの時間でこの地に辿り着くのかは分からないけれど、それでも、落ちるその瞬間までここにいる人たちを助けたい。
「あの、俺たちはどこに逃げれば良いのですか?」
「どこだっていい! とにかく死ぬ気でここから離れて!」
「は、はい……」
恐怖を感じているのに、どうしたら良いのか分からなくて、私に意見を求めてくる奴らが多数いた。
それでこの国の人間性が段々と分かってきた。
どいつもこいつもこの状況に気付いていて、何だかヤバいぞって自覚していながら、どこか悠長にことを構えている。
想像だから本当のことは分からないけれど、この国って長い間危険に晒されたことがなかったんじゃないだろうか。
こいつらは平和ボケしているんじゃないか。そう思える。
だから人々を都の外へ逃がすことにこうして手間取ってしまっている。
あいつらだったらどうしていたのだろうか。私だけ勇んで首都にやって来たが、正に勇み足だったのだろうか。
轟音が酷くなっている。
まだまだ人は辺りにいる。
◆◆◆
「リリベル! 抱えるぞ! 木陰に隠れる!」
「はい、どうぞ」
リリベルは俺に両手を上げて、抱え上げてもらう準備をしている。抱え上げてもらうことを嬉しがっているようだが、そのことに突っ込みを入れている暇は無い。
既に踏み鳴らす者は1歩を踏み込んでいる。
空にとんでもない量の土埃が巻き上がっていて、こちらにも向かってきている。
踏んだ足が風を巻き起こして、それに乗った物体がやって来ている。
それらの速さで分かる。
直撃したら死ぬ。リリベルと共に避けないといけないことは一目で分かる。




