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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第9章 最後の巨神
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巨大にして甚大2

 馬車を運転などしたことが無かったので、リリベルと共に御者台に座って彼女の手ほどきを受けながら馬を動かす。

 なぜ彼女が馬車の動かし方を知っているのか不思議で、彼女にどこで教わったのか聞いてみたが、どうやら本で読んだ知識と実際に馬車に乗って御者の様子を見た時の記憶だけを頼りに馬を動かしているというのだ。

 良くそれで馬を御することができると感心した。


 だが、彼女の腕の力では長くは運転できない。

 もしも馬が突然暴れたりしたら、いくら彼女の腕でも制御することはできない。彼女はこう見えて女の子なのである。


「そうそう、そうだよヒューゴ君。曲がりたい方向へ手綱を掴む腕を開くのだよ。力任せに引いてはいけないよ」


 リリベルは人に物を覚えさせるのが得意だ。

 教える相手によって適切な言葉でもって伝える。また、相手の欠点をすぐに理解し、適切な解決法を編み出してくれる。彼女は先生が向いている。




 不意に馬が暴れてしまわないように馬の扱い方を習っている理由は、遥か先に見える巨大な()()が原因だ。


「なあ、リリベル。あの雲より大きい奴は一体何なのだ? 生まれて初めてアレを見たがそもそも生き物なのか?」

「知識でしか知らないから、果たしてアレが私の知る者と同じかは分からないよ。でも、もし同じだとするなら、アレは巨神だね」


 巨神。

 初めて聞く言葉だ。


「そう。魔物の一種ともされているけれど、命ある者なのか誰かに作られた者なのかは誰も分からない。何せ、本に記されている巨神の話はどれも遥か昔に書かれた書物で、お伽噺の(たぐい)とか想像上の生き物の類とか言わざるを得ないようなものばかりなんだよ」

「でも過去にお伽噺のような存在に会ったじゃないか。アギレフコだったか?」


 巨大な白いドラゴン、アギレフコ。

 遥か昔、この大陸の空を統べていたと言われているドラゴンは、大地を求めて黄土色のドラゴン、エザフォスと永きに渡る戦いを繰り広げていた。

 リリベルがお伽噺としてしか知らなかった白いドラゴンの知識が、実在している真実を俺は目にしたのだ。


 お伽噺だからと言って馬鹿にできない。


「うん、そうだね」

「お伽噺となって、後の者たちに語り継がれていく程の恐ろしい奴かもしれない。是非教えて欲しい」


 リリベルは肩まで伸びた金色の髪をいじりながら、お伽噺の内容を思い出そうと少しの間唸り始める。そのすぐ後にあっと声を上げて、それから彼女は思い出してくれたことを話してくれた。




 その昔、俺たちがいる大陸には大きな山がいくつもあった。

 山々の頂点は雲より高く、端から端までの大きさは視界に収まりきらない程、壮大だった。人間だけでなく、森に住まうエルフや大地を好むドワーフさえもその荘厳な山を信仰の対象にしていた。

 山を崇め自然を愛し、誰もが穏やかに暮らしていた。


 だが、いつの頃かそれぞれの種族の数が増えてしまい、お互いの住む領域が近付くと平穏を巡って争い合うようになってしまった。

 皆が山を信仰する暇も無くなる程争いが激しくなって、いつまで経っても争いをやめない者たちに、いつしか山が怒ってしまったのだ。


 怒った山々は争い続ける生き物たちを、踏み潰して回った。

 様々な種族たちは、怒る山々を見て自分たちの行いを(かえり)みて争うことをやめた。すると山々はあっさり怒りを鎮めてしまった。


 しかし、山々が圧倒的な力を持っていることに気付いた彼らは、山々を戦いの道具として利用することを考え、わざと山々を怒らせ敵対者へけしかけ合う。

 それは誰かが利用する山とまた別の誰かが利用する山との戦いに発展し、数え切れない程の生き物と山が死んだ。山が死んだ大地は、森が枯れ水は腐り、その地に住まうほとんどの生き物が滅びてしまった。


 最後には、住まう土地を巡って争う必要が無くなる程に彼らの数は減ってしまい、1つの巨大な山を残して再びこの大陸に平穏が戻ったという。


 何とも後味悪い話である。




「その山の特徴が目の前のアレに似ているのだよ。樹木の根のように生えている多くの足と、雲より高い背。アレがたった1歩前に進むだけで、想像も付かないような風と轟音が巻き起こり、町ならその姿を失い、山なら2つに増え、川ならその流れを変えるってね」

「何という名前なのか覚えているか?」

「種族や地域によって呼び方が違うけれど、私が覚えている名は巨神とか、後は――」


踏み鳴らす者(ストンプマン)だったかな」


 その瞬間、大地が揺れて地面の下から鈍く低い連続した打音のような音が響き始める。

 馬が怯えて暴れ始めてしまったので、慌てて制御する。


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