全てが2分の2になる!!!!!
「あらららら、るぶぶぶぶ」
リリベルは久方振りの自由な会話ができて、喜びを表すかのように舌を震わせて意味不明な鳴き声を発する。随分と楽しそうだ。
俺たちは町を囲う壁を眺めているところだ。
結局ホリーは町の魔力石を盗んだという罪で、この町の牢屋に収監されることになった。罰については町の長が追って決めることになったそうだ。
一体どこに潜んでいたのか、壁の前にはたくさんの人がいる。俺たちがこの町で過ごした時と比べて町に活気がある。
何もかもを半分にしてしまう魔法に限った話ではないが、魔法を解除するには魔法陣を破壊するか詠唱者を殺す必要がある。
だから魔法陣の一部になっている町の壁を、俺とリリフラメルで破壊したという訳だ。この魔法にとても苦労させられたというのに、終わりは余りにも呆気なかった。
リリベルに言われるまで分からなかったが、この壁こそが魔法陣の枠を形どるための象徴なのだ。
「まさか町の地図を見ただけで町全体が魔法陣になっていることに気付くとはな」
「ふふん、すごいでしょ?」
「ああ、すごいよ」
素直に彼女を称賛すると、彼女は芋虫のように身体をくねらせて喜んだ。その様子がちょっと気持ち悪いと言おうと思ったが、それは彼女の機嫌を損ねそうなのでやめておこう。
町人は俺たちが破壊した壁を改めて修理している。リリフラメルは彼らの改修を手伝っている。
魔法陣と同じ形にならないよう、わざと元あった壁より内側へ作っている。
人々は久し振りの自由な会話に、まるで祭りのように騒ぎ立てている。
だが、これだけ喜ばしいできごとであるはずなのに、1人浮かない顔をしている者がいた。
俺がその残念そうな顔をしている者を見ていると、気を引くためかリリベルが俺の腕に抱きつき引っ張って来た。
「菓子店の女だね」
「なぜ彼女はあんなに浮かない顔をしているのだろうか。歯がゆそうに恨めしそうにしている様子が不思議でな」
するとリリベルはまた鼻を鳴らして、こんなことも分からないのかと思っているかのように意地悪く笑った。
「あの人は騒がしいことが嫌いなんだよ。アレンという男が言っていたでしょう? 半分になる魔法が発動する前と後で、彼女の様子が変わっていたと」
はきはきとした口調で俺たちに食事の代金を要求した彼女は、確かエリーという名だったか。
アレン曰く、エリーはこの異変が起きる前は口数が少なかったと聞く。それが異変が起きてからは元気そうに喋っていたと言うのだ。
不思議な話だ。自分の思うように喋ることができなかったら、とてもではないが明るく振る舞い続けることなんてできないと思う。
「彼女は、皆が思うように喋ることができなくなったから、嬉しくてたまらなかったんだよ。彼女にとっての平穏は静けさで満たされていることだったんだ」
「……」
「どうしたんだい?」
「ああ、良く彼女の気持ちが分かるものだなと思ってな」
人の心に興味が無く、読み取ろうとしない性格の彼女にしては、珍しいと思った。
だから素直に気になった。
「私も騒がしすぎるのはあまり好みでは無いからね。彼女の気持ちは何となく分かるさ。とは言っても彼女程静けさを愛している訳でもないよ」
「もしかして俺との会話も……?」
「まさか。君との騒がしい日々はとてもとても好きさ。それに、私は静かすぎるのも嫌いだからね」
そう言った後リリベルは1つくしゃみをした。




