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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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全てが2分の2になる!!!!

「リリベル、お前の話し方は少し回りくどくないか?」


 密かに俺が胸の中で思っていたことをリリフラメルが、あっさり吐露してしまう。

 この魔女たちはもう少し空気を読むとかできないものだろうか。


「いいの。あえて回りくどく言って怪しい魔女を装っているの! そっちの方が格好いいでしょ!」

「面倒な女だな」


 新たないざこざが起きる前に、皆にも聞こえる形でリリベルに質問する。


「リリベル。たまたま彼が町に入るか入らないかというところで、別の誰かが魔法を発動したという可能性もあるのではないか?」

「ふふん、半分になる魔法を詠唱する時の呪文を覚えているかな?」

「確か『黄金(おうごん)のようなひと時を』だったよな」


 黄金を作り出す時の呪文名と同じなのを紛らわしいと思ったことが強く印象に残っている。

 そもそも、全てが半分になる魔法で、詠唱者すらもその影響下に入ってしまう不出来な魔法のどこに黄金を見出して名付けたのだろうか。


 どう考えてもこの魔法を作った奴は、黄金を作ろうとする浅かな考えを持つ者への皮肉を込めながら呪文を作ったとしか思えない。




 皮肉?


「もしかして……」

「そう。この半分になる魔法の最も特徴的な効果は、詠唱者が例え(まほうじん)の内側にいようとその外に()()出て行ってしまうのだよ。言い換えれば、詠唱者本人が最も望んでいる物を他のどの者よりも遠ざけてしまう魔法なのだよ」


 詠唱した言葉そのものが半分になる効果を付与された状態で詠唱者に効力を発揮してしまうなら、詠唱者は最も黄金から離れてしまう。まるで『黄金のようなひと時』にはならないはずだ。

 詠唱した魔法が後になって間違いだと気付いても、その魔法を自力で解除することも、他の場所へ逃げることも許されない地点へ無理矢理移動させられてしまう。魔法の効果を受けているのに、魔法が発動できる範囲に入ることもできないから、言葉や行動で新たに魔法を発動させることもできない。


 故に、黄金が欲しいのにそれをいつまで経っても拝めない地獄のような時間が続いてしまうその状況を皮肉にして、『黄金のようなひと時を』という呪文になっているのだ。


 そしてそれは、魔法の効果を受けた者の中で最も遠くにいる者が犯人になるということも示している。


 町の中にいる者たちも確かに黄金のようなひと時とは言えない状況にある。

 だが、彼らは皆、魔法を解除できる可能性がゼロでは無いのだ。町の内側にいるからこそ、この半分になる魔法をどうにかできる可能性を与えられているのだ。真に地獄なのは、詠唱者本人ただ1人なのだ。


「ただただ特定の何かを半減させるだけだったら、もっと他に良い魔法がある。こんな、何が原因で発動してしまうかも分からない危なっかしい魔法を、普通は誰も使わないのさ。黄金を求めている奴以外はね」

「じゃあ、とても良く似ている魔法陣で同じ呪文になっているのは……」

「うん、魔法の知識もろくに無い、財宝に目が眩んだ愚かな者のために、わざと()()()()()()になっているのだよ。魔法陣の一部に、とても紛らわしい箇所に線があるかないかのいやらしい違いを作っているのは、そういうことさ」


 意地悪もここまでくると清々しいな。


「は、はは」


 ホリーが乾いた笑いをあげて雪上に膝から崩れ落ちた。

 その体勢こそが、彼が犯人であることをより印象付けさせた。


「ああ、ああそうだよ! 俺がやったんだよ!! だけど俺が何をしたって言うんだ! 確かに間違えて別の魔法陣を描いてこんな結果になってしまったけれど、そうでなかったら誰に迷惑をかけた訳でも無いだろう!」

「うわあ、君みたいなベタな犯人が今時いるのだね……」


 リリベルが読む書物の中にある、いくつかの物語に良く出てくる悪役のようにホリーは開き直ってしまった。リリベルもホリーの様子を見て感心している。

 彼の言葉に対して、リリベルのありがたいお叱りの言葉でも返されるかと思ったが、それよりも前に誰よりも熱い魔女が反応してしまった。


 ああ、そうだ。

 リリフラメルはリリベルよりも、そして俺よりも()というものを嫌う者だった。


「まだ分からないのか。お前が魔法の知識も無くて自前で魔力を用意することができない時点で、黄金を諦めるべきだったんだぞ。仮に黄金を作る魔法を発動させたとして、お前は他人の魔力(もの)を奪ってお前だけが得をすることになったんだぞ」

「魔力石から魔力を取ったからって誰が死ぬ訳でも無いじゃないか!」

「雪が降る町で火が付けられないことが、どれだけ大変なことなのか分からないのか。病に伏せた者を温める物が無くて死んでしまったらどうするつもりなんだよ」

「誰も死んで無いじゃないか!」


 未だ開き直り続けるホリーに対して、リリフラメルがこの時点まで怒らなかったことは珍しいことだ。

 だが、もう彼女も我慢の限界であろう。肩が震えているのは寒さが原因でないことぐらいは分かる。彼女の青く長い髪が揺れているのは風が原因でないことぐらいは分かる。


「このクズ野郎が!!」


 リリフラメルが雪を怒りによって掻き分けてホリーへ突っ込む。

 魔法の使えない町人とは言え、武器を持った門番だ。すぐにそのことを彼女へ注意しないといけない。


「リリフラメル! 待て! まだお前は魔法を使えない――」


 俺が言い終わるより前に、ホリーが武器を構えるよりも前に、彼女の拳がホリーの顎を捉える。

 ホリーは呆気なく、雪上へ倒れてしまった。


 リリフラメルが倒れたホリーの頭へ踏みつけによる追撃を加えようとするのが見えたので、慌てて彼女の両腕を抱えてホリーから遠ざける。

 燃え盛りすぎた正義も困った物である。


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