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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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全てが2分の2になる!!

 ホリーはスグレット武具店で見たことのある防具を着て門を守っている。

 話し方やその声からも分かる通り、年齢は若いだろう。俺と同じぐらいだろうか。

 彼はリリベルの問い詰めに対して様子は至極平穏だ。平穏を装っているだけかもしれない。


「魔法ですか?」

「この町で起きている数々の異変についてだよ」


 ホリーの問いに答えたのはアレンだ。酒場でリリベルたちと作戦会議をした後、俺たちはアレンの家に行き、彼をこの問答の一部始終を見届けてもらうべく連れ出した。

 これからホリーを問い詰めていくため、この町の誰かに証人として立ち会って欲しかったからだ。


 手紙を俺たちに送ってきた本人であり、リリベルの沈黙魔法にかかって通常通りのアレンが1番の適任である。

 ちなみに沈黙魔法にかかった者にはスグレットもいるが、彼は呼んでいない。彼の製作品に対して暴言を吐いて彼を怒らせているため、会ったらどうなるか分からないためである。

 例え頭が街灯の化け物になったとしてもきっと心はスグレットそのものだろう。俺とリリフラメルが彼にしたことを覚えているはずだ。


「そんなことを俺に言われても困りますよ。町長に報告した方が良いと思いますよ」

「ふふん、私は『君がこの町にした』と言ったでしょう? 君が犯人だと言っているのだよ」

「冗談はやめてくださいよ」


 リリベルが自慢する時や自信がある時にいつも鳴らす鼻音には、水分を感じさせる。実際、彼女は話の間々に鼻をすすっている。

 リリベルは町の外に出たことでこの環境に似つかわしくない服装を改めて、重ね着ができるようになっている。

 だから鞄からリリベル用の冬着を取り出して、リリフラメルと共に彼女へ着せる。

 手袋やマフラー、厚手の生地でできたコートなどを彼女に取り付けている間、彼女はそれらを構わずホリーに話し続ける。その様子は、付き人に構わず会話を続けるどこかのお嬢様みたいに見えるだろう。


「君はこの町全体に効果が及ぶように魔法陣を描き上げて、魔法を発動させた。何もかもを中途半端にさせる魔法をね」

「俺が町の皆にそんな魔法を詠唱して一体何の意味があるというのですか? アレンさん、こいつらに何とか言ってやってくださいよ」

「いや、君は魔法を発動させてから、それが本来発動させたかったものとは違う魔法だったことに気付いたんだ」


 リリベルはホリーの言葉を全く聞き入れない。彼女は一方的に話を続けている。

 見た目だけで言えば気弱そうでか弱そうなリリベルだが、残念なことに彼女の性格は人一倍見栄っ張りで傲慢で身内にはとことん優しい。故も知らない相手に対してはとことん敵対的で皮肉屋になる。


「そのようなことをして……町の皆を巻き込んでまで一体何をしようとしたっていうんですか!」

「黄金を手にする魔法だよ」

「黄金……?」


 俺とリリフラメルの手で暖かい格好にさせられたリリベルが、両手を腰に当てていつもより更に胸を張って小賢しい顔で演説する。


「黄金なんか手にしてどうするというのですか」

「こんな片田舎の寒い町で娯楽も無いでしょう。君は大金を手にしてこんな町から早くおさらばしたかった」

「俺は魔法のことについてはあまり詳しくないですが、黄金が欲しいのに町を巻き込む必要があるのですか」


 リリベルは両手を上げてやれやれと首を振る。


「魔術書を読まなかったのかい? ああ、いや、そこまで読み込まなかったのだろうね。小さな魔法陣で試してみて、実際に黄金を作ることができた君は、もっと大きな黄金を作ることに夢中になってしまったのだから」

「だがら俺は知らないと……」

「黄金を作る魔法は多くの魔力を消費するんだよ。鉱石や宝石には魔力を自身で生成するものや、貯め込む性質のものもあって、黄金も例に漏れない。元々そこに無いものを1から作ることでさえ多めの魔力を必要とするのに、黄金を作ろうとするなら更に魔力が必要だね」


 彼女の一方的な物言いがホリーの癪に触ったようだ。彼は身体ごと俺たちへ向き直って大きな身振りで彼女の話を否定し始めた。


「この町には魔法使いもいないし、鉱石の採掘場もありませんよ! そんなにたくさんの魔力を必要とするなら、この町でわざわざ黄金を作る魔法を使う利点がありませんし、何度も言いますが俺は何も知らない!」

「君は門番だ。この町にやって来る荷馬車の品の内容を知っている。中にどんな物が入っているのかを商人に聞いても不思議は無い」


「君がこの町全体の範囲に及ぶように魔法を仕掛けたのは、魔力石だよ」


 リリベルは格好つけている。ノリノリである。


「街灯を照らすための魔力石、暖炉や料理の火をつけるための魔力石。寒くて雪を降らせる雲が常に覆われているこの町には、それらのための魔力石が多く必要だね。君はそれに目を付けた」


「町に入る前に盗んではそれぞれの商店に流した時点で数が合わなくてバレてしまうから、君はわざと町へ品物が行き渡るようにさせた」


 魔力石。

 用途によって特定の魔法や魔力そのものが(あらかじ)め石に込められた物が、この世には流通している。

 それらは水が欲しければ水の魔法が組み込まれた魔力石を使ったり、火が欲しければ火が出る魔力石を使ったりすることで、使用者の生活を助ける便利な道具なのだ。

 中に入っている物は、魔法である前に魔力だ。


 スグレット武具店の暖炉にも、火を付けるための魔力石が暖炉の上に置いてあった。


 彼はそれを利用したとリリベルは言うのだ。


「そして君がこの町に固執する理由。いや、固執せざるを得ない理由は……」


 わざと言葉を溜めて見せ場を作るリリベルが、段々と可愛らしく見えてくる。

 ノリノリの彼女に合わせて、俺は黒鎧を纏って彼女の横でそれらしいポーズを取る。


 彼女は俺の様子を見てとても嬉しそうに微笑んでくれたが、リリフラメルとアレンの2人からは冷たい視線で見られた。


「固執せざるを得ない理由は、()()半分になる魔法の影響を受けてしまったからだよ」


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