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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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全てが2分の2になる!

 次に暗闇が晴れて視界が開けると、リリフラメルの怒声が聞こえてきた。

 道のど真ん中でリリフラメルが俺の行く手を(さえぎ)っている。リリベルは俺のすぐ横にいて至極うんざりしたような顔でリリフラメルを見ていた。


「なぜ憶えていない! 私とお前とで頭が街灯になっている化け物と戦ったじゃないか!」

「まだ言っているのかい。そんな尖った見た目の変人なんて……えーと、会ったことも無いと言っているでしょう。ヒューゴ君、君からも何とか言ってよ」


 リリフラメルと俺が戦っていた街灯頭のスグレットの話をリリフラメルが必死に共有しようとしていたようだ。

 リリベルが一瞬言葉を選ぼうとしたが、何度もリリフラメルが俺たちに聞いたからなのか、苛々を表に出してはっきりと喋ってしまった。リリフラメルの姿がここにあって、リリベルが言葉を選ぼうとしたということは、恐らくこの世界は元いた世界とみて良いだろう。


 リリベルとリリフラメルの2人は俺に詰め寄り、俺からの言葉を待っている。

 暗闇が晴れる寸前の記憶を思い出そうとすると、元の世界にいた俺とあちらの世界にいた俺の両方の記憶が思い起こされてしまう。

 1つの物語に全く関係の無い別の物語が無理矢理差し込まれたかのようで、脈絡の無い不自然な記憶の連続に混乱してしまう。どちらの記憶も正しく俺の記憶であるということを自分に言い聞かせながら、必死に頭の中にいる彼女の顔を呼び起こす。


 そうだ。

 向こうの世界に1人残してしまったリリベルを一刻も早く助け出さなければならない。

 彼女が今も俺やリリフラメルに沈黙魔法をかけてくれているなら、いつも通りに会話することは可能なはずだ。


 疑う余地は無い。

 俺の信じる主人は、この町で起きている現象を解決するために俺たちを信頼して託してくれている。彼女の想いに報いるためにも、目の前にいる彼女に伝えていかねばならない。


「すまない、リリフラメル。今、やっと俺はスグレットのことを思い出せた」

「ヒューゴ君? 冗談ならそれは悪い冗談だよ?」


 しかめっ面のリリフラメルが俺の言葉を聞いて一転、明るい顔色になる。反対にリリベルは俺に対して不信感を募らせてしまっている。彼女がそう思うのも無理は無い。

 恐らく今先程までは、()もリリベルと同じようにリリフラメルの言葉をずっと否定し続けていたはずだろうから、それが急に酔狂なことを言い出したとあれば彼女が顔をムッとさせるのも理解できる。


「リリベル、リリフラメル。話したいことがある。ひとまず落ち着ける場所へ行こう」

「えっと、ヒューゴ君?」

「ああ、リリベルは喋る言葉に気を付けてくれないか。リリフラメルと俺は事情があっていつも通り話すことができるが、リリベルはまだ魔法の影響下に入っているんだ」

「ほうほう」


 切り替えが早いな。






「ははーん、ふふーん」


 俺たちは近くの酒場に入って1脚の卓を3人で囲んでいる。

 その後、あちらの世界で起きたことやあちらのリリベルと話したことを2人に打ち明けた。

 俺だったら簡単には受け入れられないような訳の分からない話をリリベルは、俺の言葉に逆らったりせず、素直に呑み込んでくれた。

 その様子を少し不気味に感じて、思わず彼女に尋ねてしまった。


「簡単に信じてくれるのだな」

「もちろんだとも。君の言うことは……あー、もちろんだとも」


 歯切れが悪そうな彼女を見て、意地悪なことをしてしまったと思った。




「今の話が本当なら、私とお前とで魔法の中心地に行けば良いのではないか?」


 リリフラメルの提案は魅力的だった。半分になる魔法の影響を受けないのであれば、俺とリリフラメルはきっと目的地に辿り着けるはずだろう。

 しかし、俺たちはリリベルによって沈黙魔法をかけられている。魔法を使うことができない。

 もし、目的地に俺たちを害そうとする者がいたなら、俺たちはとても不利な戦いを強いられることになる。ともなれば魔法以外の戦闘技術を持ち合わせていないリリフラメルを共に連れて行くことはできない。彼女に危険を冒してまで戦ってもらおうとは思えないのだ。


 俺がリリフラメルに同意できないで困っていると、横に座っていたリリベルが突然肩を震わせて小さく笑い始めた。

 どうしたことかとリリフラメルと目を見合わせてからリリベルの様子を窺っていると、俯いていた彼女が顔を上げて口を開く。


「門番」


 その単語だけでは彼女の意図が掴み辛い。

 だから、彼女の言葉を噛み砕かねばならない。リリベルが何を伝えようとしているのか、彼女の性格や顔色から読み取る。()()()きっと俺はリリベルの考えていることを察することができるはずだ。


「何? その人がこの魔法に関わっているということが言いたいの?」

「……」


 リリベルは無言のまま頭の上に両手を上げる。円を描くような腕の形が丸を表しているのだとすると、彼女が言いたかった言葉は「正解」という意味だろう。



◆◆◆



「おや、お帰りですか」


 門番のホリーが俺たちを視界に入れて、笑顔で挨拶を交わしてくれた。


「ヒューゴ君、もう大丈夫だから下ろして?」


 リリベルを背負って町の外へ出た俺は、彼女の合図で背中から下ろす。

 半分になる魔法の影響を受けない俺がリリベルを背負って行動すれば、彼女は彼女自身の意思とは関係無く、町の外に出ることができるようになるという俺の予想は正しかった。


「やあ、ホリー君」

「久し振りですね、アレンさん。どうされましたか? あ、御三方のお見送りでしょうか?」


 町を囲む壁の外には今、俺とリリベル、リリフラメル、アレン、そして門番のホリーがいる。

 アレンは犬でも無く、胡散臭い紳士でも無く、ただただ普通の人間の姿をしている。俺とリリフラメル同様、半分になる魔法の影響から脱した彼も、今は()()姿()に戻っているのだ。


「いや、貴方に用事があって来た」

「俺に?」


 リリベルは俺の前まで回り込んで、胸元に寄りかかって来た。

 彼女の後頭部を視界の端に映したまま俺はホリーを見つめる。


 彼は至って平穏な様子で、俺たちがどのような用を持って来たのか気にしている。


「そう。君がこの町にした馬鹿みたいな魔法の話をするためにここに来たんだよ」


 魔法の影響を受けない町の外に出て、いつも通りに言葉を紡ぐことができるためか、リリベルの口調はどこか軽やかで嬉しそうだ。

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