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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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魔女が2分の1になる!!!!

「あー、あー。つまり、本当は半分になる予定ではなかったのか」


 近くにいるリリベルの声も俺自身の声さえも、耳だけがここから離れている所にいるように遠く聞こえる。辛うじて聞こえないことも無い。


「その通りだよ。こういった形が似通った魔法陣による魔法の勘違いは、事例集として書物になるぐらいで私も読んだことがあってね」


 聞くに彼女はこの町に入ってからずっと、半分になる魔法について勘付いていたようだ。

 途中から彼女が無口になったのは、魔法の効果が大体予測できていたからだろう。それなら俺にも何らかの形で伝えて欲しかったのだが、彼女は不確定の要素を俺に伝えることを恐れていたようだ。誤ったことを伝えてしまうことが恥ずかしいらしい。


 彼女は壁に描いた魔法陣を手で擦り消し、うきうきで新たな魔法陣を描き始めた。


「恐らく半分になる魔法を描いてしまった人間は、本当はこの魔法陣を描きたかったのだと思うよ」


 リリベルがそう言いながら、描き上げた魔法陣に手を置き続けて詠唱を行った。

 魔法陣はとても単純な作りをしていて、俺でも2、3回程描けば覚えられるだろう。


黄金(おうごん)のようなひと時を』


 魔法陣の中央から金色の物体がぬるりと出現する。それは出現すると共に、重力に逆らわずその場に落ちる。相当の重さを感じさせる音を上げて木材の床を突き破ってしまった。


「見ての通り、黄金を生み出す魔法だよ。それでね……ここをこうすると……」


 次にリリベルが描き足したものは、たった1本の線だった。魔法陣の中央辺りに、付け足したのかどうかも分からないような些細な線が描き込まれた。

 そして彼女は自分の胸に手を当てて目を閉じた。


黄金(おうごん)のようなひと時を』


 彼女の次の詠唱では何も起こらなかった。

 光を発したりとか、物体が出現したりとか、音が鳴り響くとかそういった分かりやすい変化は特に無い。

 だから俺はてっきり彼女が詠唱に失敗したのだと思った。


 だが彼女は構わずに次の詠唱を続けた。


「私はヒューゴ君の手を2回噛む」

「な、おい!」


 もう既に嫌な予感がする。

 彼女は言うが早く、笑顔で駆け寄って来た。彼女の言葉と、これから起きる出来事を想像すると恐怖するしかない。慌てて椅子から立ちがって逃げようとするも彼女のすばしっこさには負けてしまい、腕を掴まれてしまう。


「じょ、冗談だよな?」

「んふふ」


 気持ち悪い笑みを浮かべたと思った次の瞬間には、彼女の口は俺の手に歯を立てていた。

 正気ではない。


「いだだだだ!」


 痛みから逃れるために彼女に乱暴する訳にもいかなくて、ひたすら我慢しながら彼女に噛むのを止めるようお願いするが、彼女は止まらない。笑顔で楽しんでいる。

 このまま食い破って肉を食べたりしないよな?


 ようやく彼女の口が離れた時には、手にはくっきりと歯形が残ってしまっていた。彼女はそれを見てなぜか、ふふんと鼻を鳴らして喜んでいる。

 一体何が楽しいのだろうか。


 そして、彼女が1度口を離してからもう1度俺の手に噛み付こうとした時だった。

 俺の手に歯が触れるかどうかというところで、止まってしまう。

 彼女はそれを歯痒く感じているようで、何度も歯を動かして俺に痛みを与えようと必死になっている。


はぁこんなかんひだよ(まあこんなかんじだよ)


 彼女は残念そうに俺の手から離れると、黄色のマントで汚れた手を拭く。

 その後は魔法陣を手では消さずに、背中で魔法陣のある壁に寄りかかって擦りつけるようにかき消した。


「これは妨害魔法の一種だよ。本来は対象者の魔法の威力を半減させるために作られたものなのだけれど、作った奴が馬鹿でね。効果の範囲が魔法だけでなく、より広い範囲に適用されてしまったのだよ」

「魔法を使った奴が、どうして本当は黄金を生み出したかったと思えるんだ?」

「人間は黄金が好きでしょ?」


 いや、そりゃあそうだろうが、その理由だけで片付けてしまうのは何とも釈然としないな。


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