魔女リリベル・アスコルトの景色2
「私は……不死身だよ。私を……殺し続ければ……元に戻る……よ」
私にかけられた『魔女の呪い』で得られる恩恵は不死身。
「駄目だ。回復魔法を唱えろ」
ヒューゴという名の彼は、ひどく優しく残酷な人。
私を救いたがるくせに、私を楽にさせてくれない。死ぬ時の痛みは一瞬だというのに、殺してくれない。死ぬ程の痛みに耐えながら、傷の手当てをしろと言う。
とっても優しくてとっても意地悪で残酷な人。
『ヒール』
頑張って喉から絞り出した詠唱で顔の痛みがわずかに引いてきた。
私の傷が完全に癒えるまで、彼は私の身体を支え続けてくれていた。床に放って置けばいいのに。
えぐられた左目が再び見えるようになって左端の景色にヒューゴ君の表情が窺えるようになった。
ああ。
多分きっと彼の表情は今の私の顔よりひどいと思う。まるで痛みを顔に出していない私の代わりに痛がっている顔をしているようなのだから笑えてくる。
多少のお礼の気持ちとして、私はヒューゴ君にも回復魔法をかけてあげる。
『ヒール』
魔法をかけながら私はふと彼の意地悪に対して、意趣返しとして問い詰めてやりたくなった。
「君はなぜ……私を殺してくれなかったんだい?」
ものすごい沈黙の後。
「余計なことは喋るな」
彼の言葉に思わず笑ってしまいそうになった。
なんて分かりやすい人。
とても興味深い。この人間の思考をもっと知りたい。
◆◆◆
不快だ。
反響して聞こえる叫び声が、頭の中でさらに反響して気色が悪い。
朧げに目が覚めると同時に尋常ではない痛みが胸や腹から湧き上がる。
『極光剣!!』
確か彼は調査隊のリーダー。
あ、そうだ。思い出した。
遺跡の調査をしていたのだった。
確か、魔法トラップが急に発動して魔物の群れが襲ってきて、ヒューゴ君を守ろうとしてズタボロにされたのだっけ。
微かに傷口周辺から魔力を感じる。治療をしようとした痕跡だ。
私のことを多少なりとも知っているはずの彼は、また死にかけの私をすぐに殺さなかったようだね。
君は死んだらそれまでだというのに、死ぬかもしれないというこの状況なのに。この期に及んで私を気遣おうとする君のその思考。
本当に君は頭がおかしいね。
仕方のない人間だ。であれば、その狂った思考に応えるとしよう。
『……ヒール』