11時間後
『剣は盾』
リリベルに教えてもらった方法を試して功は奏した。黒い剣は念じることで自身の好きな形へと変えることができるとリリベルは言った。
物質を強制的に変えることは、本来であれば膨大な魔力を必要とするが、それも黄衣の魔女の魔力であれば問題ないという訳だ。
「おお、格好いいー」
茶化すな。
鎧の軍隊は魔法の剣を放つ。剣が青白いオーラを発し、鎧がそれを振ると半月状になったオーラだけが飛んでくる。
魔力を持ったオーラは黒鎧では到底防ぎ切れない。
そこでリリベルの助言があったという訳だ。
盾は鈍重だが、防御に特化していてオーラを何度防御してもひびの1つもつかない。
しかし、リリベルの魔力で強化された肉体をもってしても、オーラの衝撃が盾から伝わり手が痺れる。強化されていなかったら多分俺の身体はそこら辺に吹き飛んでいることだろう。
リリベルがいなかったら何も成し得ないのだ。
オーラを防御している間に、すぐ後ろでリリベルが雷の魔法を放つ。
『静雷』
とても小さく弾けるような音がすると一筋の光が鎧を貫く。
遺跡という閉鎖空間では、通常の雷魔法では爆音で聞く者の頭を破壊しかねないということらしい。
というか、それができるなら血の町でもやってくれよ。
貫かれた鎧は崩れ落ち動かなくなるのだが、倒したそばから下から新たに同じ姿形をした鎧が湧き出てくる。
結局、魔物の群れがいた時と同じ状況だ。
幸い今はリリベルの『彩雷』という魔法のおかげで辺りの景色も鎧の姿もはっきり見える。
しかし、リリベルという強大な戦力がいるとはいえ、俺たち足手まといがいる限り状況は好転しない。
鎧の軍隊を無力化する次の解除方法を探さなければならない。
古代文字を読めるのはジェトルだけなのだから、ジェトルが早く活躍してくれる結果になることを祈るしかない。
鎧の軍隊の解除方法は、魔物の群れに対する解除方法の記述の近くにないという悪辣っぷりである。
◆◆◆
「ありました!」
ジェトルが文字を読み解くのにどれだけの時間がかかったか。
外の景色が見えないこの状態では時間の感覚が掴みづらい。昼を知らせる鐘も鳴らないし、太陽も見えない。
だが相当な時間は経った気がする。
『賢者の石を欲する者、同じ時に至る時、その資質を認める。 賢者の石を手放さんとする者、我が魔法騎士団に敬意を払い、しじまを捧げる時、凪に至る』
「『しじま』とは単純に静かにしろという意味だろうか」
ディギタルが疑問を呈す。
「しかし、魔女と魔女の騎士が彼らの攻撃を受けている限り、静かにすることは難しいのではないでしょうか」
「あの鎧たちが攻撃するタイミングは皆同じ。一瞬であれば魔法を放たずにすることは可能だよ」
イゼアの追加の疑問にリリベルが淡々と答える。
リリベルはまるで問題がなさそうに語るがこちらは不安で一杯だ。
1番敵に近いのは俺なのだが……。
兎にも角にも、ディギタルの合図で調査隊は一斉に動きを止めることになった。
あくまで一瞬なので、鎧の軍隊が攻撃を止める気配が見えなかったら、すぐ様に俺とリリベルは戦いを始める手筈だ。
「大丈夫だよ。私が守る」
リリベルが俺に耳打ちする。兜の中に彼女の声が反響して若干こそばゆい。
だが、彼女の言葉で少しの安心感が得られた。自分で言うのも何だが、効果的な鼓舞だ。
「あ、でも君の盾で私を守ってくれないと私が攻撃を受けて君を守れない。だから、しっかり守ってくれたまえよ。私の騎士殿」
こいつは人を鼓舞するのがとても上手い。彼女が放った少しの言葉で、盾を持つ俺の手の力を先程より強めさせた。
どうやら彼女の魔女としての強さは、ただ膨大な魔力を持っているからだけではないと今気付いた。
ちなみに湧き出た勇気の他に感じた感情がある。なんだか手玉に取られているような感覚。その感覚に、俺より年下という条件を付け足すと、さっきとは異なったこそばゆさを感じさせた。
「任せろ」
こそばゆさを内に秘めて、俺は湧き出た勇気を彼女のために奮う。




