魔女が2分の1になる!!
あれだけ暑かった戦いが、今ではすっかり寒くなって身体も冷えてしまった。溶けて無くなった雪も、いつの間にか淡く白く道々に積もり始めていた。
辛うじて残った家にお邪魔して、俺たちは暖をとることになった。
どこの家庭にも暖炉があるのは良いことだ。
「しかし、麗しいお嬢さんが1人いなくなってしまったことは心配ですな」
「この通りで探せる場所は全て探した。それでも結局リリフラメルは見つからなかった」
リリベルは俺の両膝の間に身体を丸めて横に収まっていて、彼女が椅子から転げ落ちないように俺は彼女を両腕で抱え込む羽目になっている。
アレンからは俺とリリベルの行動がとても破廉恥な行為であると注意されたが、リリベルが牙を剥いたためこのままの体勢となっている。何だか最近の彼女は、やけに知能が低下したような振る舞いをしている気がする。
それでもにこにこ笑顔のリリベルの顔を見ると、どうにも心が癒やされてしまって彼女の破廉恥な行動に目を瞑ってしまう。いかん、心を鬼にせねば。
俺からも彼女に対して注意しようかと迷いながら彼女の顔を見つめていたら、不意に疑問が生まれた。
「リリベル、沈黙魔法をかけた感覚って今も残っているのか? リリフラメルとスグレットに魔法の効果は今も効いているのか?」
「もちろんだとも」
彼女はふふんと鼻を鳴らして自慢気な顔を見せた。
「居場所とかは分からないのか? 例えば自分の魔力の感覚とかで位置を特定することはできないのか?」
「それが分からないのだよ。本当なら彼らの大体の位置が分かるはずなのだけれど、何だかこの町は魔力を感じ取りにくいんだ」
残念だ。
もしかしたらと思ったが、魔力を操る力に長けている彼女で持ってしても、2人の位置は把握できないようだ。
「そうだ。聞きそびれてしまったけれど、君に聞きたいことがあるんだ」
「俺か?」
「いや、ヒューゴ君じゃなくて、そっちの君」
俺の胸元に顔を埋めたまま指だけを動かして、隣の椅子に座っているアレンの方を指す。
「何でしょうかな」
「さっき、このおかしな現象が起きた後も普通に会話してくる人間がいると言っていたね。具体的にどこにいる誰なのかを教えてくれないかい?」
「ほうほう。私の知っている限りでは、マーロウ衣料品店の主人ロイドさん、美味しい菓子店のエリーさん、後は門番のホリーくんですかな」
「菓子店?」
アレンから挙げられた3人のうち、リリベルは菓子店のエリーという女性が気になったようで、更に聞き返した。
「この町で唯一の菓子店なのですが、あそこの味は絶品なのですよ」
唯一ということは、俺たちが先日食事を摂った店と同じ店だ。
そういえば金を支払う時に応対していた女性は、やけにはっきりと言葉を話していた気がする。彼女がエリーだろうか。
「ふうん。その3人の中で異変が起きる前と起きた後で、様子が変わった人はいたりするかい?」
「はてさて、様子が変わったと言われても難しいですな。彼らとそこまで仲が良い訳でも無いので……あ、そういえばエリーさんは確か、あんなに口数が多い人でも無かったような気がしますな」
「そうなの?」
「代金の支払いはいつも彼女が行っているのですが、愛想が良いとは言い難いですし、支払う代金の金額だけをボソッと言うだけだったような気がしましたな。とは言っても私が赴いた時にたまたま機嫌が悪かっただけということもありますから、何とも言えませぬな」
アレンのその言葉に、リリベルは突然肩を震わせ始めた。
「それよりも、むしろ変わったのは町の人全員と言った方が正しいですな。私だけでなく、皆元々は良く喋る方々ばかりでしたから、この呪いのような現象が起きてからは皆人が変わったように静かに過ごしておりますぞ」
彼女の顔を覗き込むと、くすくすと可愛らしく笑っている。彼女のその顔色を見て俺は安心した。何か分かった時に見せる余裕のある表情だからだ。
「後、確かめたいことがもう1つあるのだけれど、良いかい?」
「良いですとも良いですとも。何なりと私に――」
アレンの快諾を受けた瞬間、彼が全てを言い終わる前にリリベルが即座にアレンに向けて指を出して一言呟いた。
『沈黙』
その魔法は、本来なら対象の魔力の動きを阻止し、魔法を詠唱できなくなるようにするための魔法だ。
俺が彼女から習った授業に嘘が無いなら、それ以外の効力は無いはずだ。
それなのに、アレンは俺たちの目の前から姿を消した。一瞬でだ。
「なるほどね。分かったよ。こんなに簡単な話だったのだね」
「リ、リリベル。一体何をしたんだ……?」
何が起きたのか全く分かっていない俺は、リリベルに目の前で起きている消失についてただ聞くしかない。




