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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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町が2分の1になる!!!!!!

 リリベルが鍋の様子を見ている間、アレンに様々なことを聞いた。


 彼がこの世界に来てしまった理由は、お喋りな彼の独り言によるものだった。彼がこの通りに用事があって訪ねた時に、家に誰もいなかったそうなのだが、不意に「誰もいないのか」と言ってしまったそうなのだ。

 その結果、誰もいない状況を無理矢理2分の1に変えられ、彼だけが()()という状況にさせられてしまったのだ。その時はきっと、本当は近くに誰かいたはずなのだろうが、そのじょうきょうすらも彼自身の言葉で捻じ曲げてしまった。


「私みたいな人が他にもいるかもしれませんな。町ごと巻き込んで隔離されてこの世界を生きているやも」


 恐らく現実世界にいる()()では、中途半端に人々が存在するような状況をこの現象の結果として魔法を発動したのだろうが、もう半分の世界、つまり今いる世界には俺たちを除いて彼しかいない。

 つまり、「誰もいない」という言葉に対して魔法は、片方は何人かがいる世界で、もう片方は半分になったアレンだけがいる世界を作り上げた。

 数字という明確に半分を判断できる物差し等が無い場合だと、やはり半分の定義がおかしくなっている気がする。


 アレンの姿についてもどうやら魔法の影響のようで、本来の彼は29歳だった。だから、とても髭を蓄えて皺を目立たせる年齢ではない。

 彼の独り言が、彼若しくは彼を取り巻くあらゆる環境を変化させてしまった。

 言い方は悪いが自業自得ではある。彼自身、この町に起きている異常事態には気付いていたのに、口にすることをやめられなかったのだから、それで身に起こる不幸を嘆かれても少々困りはする。

 だが、放ってはおけない。この町で起きている苦難を取り払って、人々に()()の暮らしをしてもらいたいものだ。


「皆が町を出ないのは、出ようとしないのではなく出られないのだよ。この現象が起き始めた頃、まだ誰も異変に気付いていなかった頃。町の外へ行くには行き先が必要でしょう。行き先は誰かに伝えるべきなのでして、ほとんどの者は誰かに言葉で伝えてしまったのです。家族であれ、友人であれ、仕事仲間であれ、町の外へ出るならただの散歩目的ではないのですから、誰かに伝えるでしょう。不測の事態に巻き込まれた時に誰かに探してもらわねばなりませんからな」

「皆で原因の究明を行おうとはしなかったのですか?」

「ええ、ええ。もちろんしましたとも。しようとしましたとも。ですが、ろくに言葉を交わすこともできないですから、意見の交換など全くできませんでしたな。各々が調べて、解決に導ける答えを各々が持っていたとしても、各々が内に秘めているままでしょうな」


 彼と話している間に、リリベルが野菜のスープが入った器を俺に手渡してくれた。アレンが考えなしに鍋に入れていた特大サイズの野菜たちが、いつの間にか彼女の手によって一口サイズに分けられていた。

 知ってはいるが、とても美味しい。

 この町に来てから初めて美味しい食事を食べることができたので、その美味しさに食が進む。急いでいる訳でもないのに口に進める速度が速かったためか、口内を火傷してしまう。舌の表面が剥がされたような痛みが襲う。

 火傷の痛みに顔をしかめていたのをリリベルが気付いたのか、俺の額を人差し指で小突いてふふんと鼻で笑ってきた。焦って食べなくて良いという意味だとは思う。


 リリフラメルとアレンにもスープが渡されて、最後にリリベルもスープに口をつけ始めた。


「いやはや、口に入れば何でも良いという性質(たち)ですから、料理の腕など全くでしてな。久方振りにまともな味のする物を食べましたな」


 アレンは仕方ないと一蹴するが、彼の作ったアレは正直料理と呼ばない方が良いかもしれない。


「俺たちはこの現象を引き起こしている場所を突き止めようとしていたのですが、気になる場所へ向かった後にここに迷い込んでしまったのです。何か心当たりは無いですか?」

「ふむふむ。残念ながら分かりませぬな」


 否定するアレンだったが「ただ」と付け加えて、別の手掛かりを教えてくれた。


「ただ、この町で異変が起きた後も、何人かは上手く会話出来る者がおりましたな。我々が何もかもを半分にされていると気付いた後でも、以前と同じように接してきた者がおりました。私がこの世界に来る直前でもその方と会話をしたことがありますぞ。要領の良い方たちですな。もしかしたらその方々と話をすれば何か分かるかもしれませんな」

「アレンさんがその人たちと半分になる現象について話し合わなかったのですか?」

「私はこの通り口数が減らぬ男ですから、私に対してはそもそも誰も余り会話をしたがらなかったのです」

「だろうね」


 リリフラメルが横から一言突いてきた。

 彼女はアレンの止まらない話に腹を立てているようで、貧乏揺すりが止まらない。

 リリベルが作ったスープが美味しいのか、彼女の持つスプーンが口に運ばれることは止まらなかった。

 アレンに対して腹を立ててはいるが、食事の美味しさによる幸せで怒りを相殺してくれている。


「しかし、困ったね。私たちがこの世界に来たということは、元いた世界にも半分になった私たちがいて、動き回っているということになるね。どうすれば元に戻るのかな」

「向こう側の世界にいる誰かに、半分になった俺たちを引き戻してくれるような言葉か文字を発してもらわないと出られないということになるよな」

「うん、そうだね。ただ――」


 リリベルが口に運んでいたスプーンを出して、それを俺に指して言う。


「この世界が魔法で作られた世界なら、滅茶苦茶に破壊してやればどうにかなるのではないかな?」

「大丈夫なのか? そんなことを俺たちの存在も一緒に破壊される結末になったりはしないか?」

「元いる世界に私たちがいるなら、最悪そっちの私たちが何とかしてくれるでしょう」


 無茶苦茶なことを言うリリベルだが、この世界で俺たちができることが、この世界の破壊しか無いならやらざるを得ないのだろう。

 いかん、自暴自棄になっている。彼女の作った料理を食べて落ち着かねば。


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