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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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町が2分の1になる!!!!

 雪の寒さにうんざりしながらも、俺は何度もがむしゃらに角を曲がっては進んで、曲がっては進んでを繰り返してみた。

 これまで良く見ていなかった町並みを改めて記憶に留めようと注視してみると、同じ家々、同じ看板が何度も何度も現れることに気付いた。

 元々、家々は作りや見た目を他の家と合わせているせいで、違いを見付けるほうが大変だが、それでもそれぞれの家には個性がある。窓の位置や、煙突の色等、細かい部分で家主の性格が表れているのが見てとれると言っていいだろう。

 だが今この場では、同じ家の並び、同じ店の看板等が、どちらに曲がり進もうとも同じように出現しているのだ。


 俺たちは外にいながらにして、1つの場所に閉じ込められた。

 身体は疲れ、ゆっくりと横になりたいのだが、こんな雪道で寝ようものなら確実に死んでしまう自信がある。横になる訳にはいかない。


「駄目だ。どこの家も家主……駄目だ」


 リリフラメルが頑張って一軒一軒扉を叩いて回り、助けを求めてくれたのだが、誰1人として扉を開ける者はいなかったようだ。

 居留守というには余りに気配を殺しすぎな気がするし、家の静かさが過ぎて住人の存在さえ疑わしく感じる。


 最悪の場合は、リリフラメルの提案通り、無理矢理家の中に侵入するしか無いのだろうが、俺はリリベルの評判を考えてしまってどうしても気が進まない。もし、家の中に住人がいて、そいつらがリリベルに悪い印象を持ってしまえば、望まない結果になることは明白だ。

 噂というものは案外簡単に広まっていく。本人が望む望むまいと、情報は言葉や文字を使って広く伝播していくのだ。

 魔女という特異的な情報を持ったリリベルのちょっとした行動が、思いもよらない結果に導かれてしまう可能性だってあるのだ。

 悪いことをする時には、なるべく慎重になるしかないのだ。




 そうやって下手な行動ができないまま、店を構えている訳でもないただの民家の扉前で悪戯に時間を過ごしていた。

 継続的な寒さに体力を奪われ続け、雪に曝されている肌が冷たさで痛みを感じ始める。リリベルは先程の奇行のせいもあってか、鼻先などの赤い部分を除いて、ただでさえ白い肌が更に白くなってしまっている。

 俺は必死に手を擦り合わせて小さな熱を生み出してから、リリベルの耳や頬を暖める。小刻みに震える彼女の体調が心配だ。


 潮時だろうか。


 何度も同じ道を歩かされているこの現象が、何もかもを半分にする魔法を原因とするなら、どうにか別の言葉で上書きできないか考えてみたが、俺には上手く考えつかない。

 明らかに寒さで頭が回らない。


 リリフラメルに暴れてもらうことで状況が好転しないだろうか。

 最後の切り札としてリリフラメルに町を破壊してもらうよう、お願いしようと彼女に声を掛けようとした、その時であった。


 外には俺とリリベルとリリフラメルしかいないはずのこの場に、新たな足音が聞こえてきた。

 雪を踏み締めるキュッという音を響かせながら、奥の方から誰かの人影が現れ始めるのが見える。


 リリベルもリリフラメルも俺の傍にいて、歩いてなんかいない。彼女たちがこちらに来ている訳では無い。

 確実に俺たち以外の者だった。


 足音が鳴る方を目を凝らして待つ。


 すると1人の人間がゆっくりとこちらに近付いて来るのが分かった。

 一昔前の紳士のような風貌で、頭には黒いトップハットを被っており、黒いコートに身体を包み、その下からはグレーのズボンを覗かせていた。

 更に距離を近付けて、彼の姿がはっきりし始めると、今度は顔が見えた。


 痩せ過ぎず太り過ぎずといった顔つきで、鼻の下には綺麗に揃えられた髭が蓄えられている。

 手は黒い手袋をしていて、とても暖かそうだ。欲しい。

 更に彼はステッキを脇に挟んでいて、優雅に歩いていた。


 裕福な家の男であることは確かだろう。


「おやおや、御三方どうされましたか」


 顔に皺という苦労の証拠を浮き上がらせた彼は、俺たちの存在に気付くと帽子を取って胡散臭い挨拶をしてきた。


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