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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
プロローグ
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黄衣の魔女2

 目が覚めると見知らぬベッドの上だった。

 ぼんやりとした意識の中で、俺はなぜここにいるのか。ここに至るまでの間に、昨日は何をしていたのか思い出そうとしてみた。


 オーフラの軍勢が攻め入って来て、城が陥落したこと。命からがら城から逃げ出したこと。なんとか隣町のザリオに辿り着いたこと。


 少しずつ意識がはっきりしていくにつれ、記憶も蘇り始めてきた。

 だが、まだ他に何か思い出すべきことがあったような気がする。とても重要なことだったはずだが、なぜか思い出そうとすると憂鬱な気分になる。




 顔でも洗えば思い出すだろうと、体を起こそうとした時、ふと視界の端に女の子がいることに気付いた。

 そして、その女の子を完全に視界に捉えた時、全てを思い出した。

 金色の長い髪を横に流して寝ている女の子、黄衣の魔女。


「あ、最悪」


 俺は自分でも気付かぬうちに小さくボソッと正直な感想を呟いてしまった。

 呟き声に反応したのか、魔女が薄く目を開けてこちらを見やる。


「おはよう」

「お、おはよう」


 そうだ、そうだった。ザリオまでやって来たものの、夜中で、お金も満足に持ち合わせていないから宿探しには苦労したのだった。

 結局、魔女の護衛をする兵士という(てい)で、『部屋を貸さないと旅に疲れた魔女の魔力がここで暴走するぞ』と脅迫して無理矢理にではあるが部屋を借りることができた。

 宿屋の主人には申し訳なかった。






 ひどく汚れたボロボロの布切れ一枚をまとっていた黄衣の魔女は、今は素っ裸で久方振りともいえる湯を楽しんでいた。

 城にいた時は真冬であろうと、冷たい水で湯浴みをさせていた。寒さに震える体を見た時は、若干の心苦しさもあった。

 魔女は目の前で湯桶に入り、布で身体を拭いながら話しかけてきた。


「それで、どうかな。もし良ければ私のもとで働いてみないか。もちろん無理にとは言わないさ。私をもう一度牢屋にぶち込んでも構わない。恨んだりはしないから安心して」

「ここ数日の内に色々ありすぎて……。頭の整理が追いついていないんだ。だからいくつか質問させてくれないか」

「うん、いいよ」


 魔女は柔らかく微笑んで返す。


「まず、名前を教えてくれないか。初めてお前と会った時に、名前を聞いたが――」

「『魔女に名前を聞くなんて、良い度胸しているね』」


 魔女に遮ぎられて、初めて会った時と同じ言葉を笑顔で返した。その物腰柔らかい口調と笑顔が逆に恐怖を煽る。

 見た目はただの女の子にしか見えないが、魔女なのである。


「……あ、ああ。そう言っていたな」


 名前で呼べるなら話しやすいかと思ってみたまでだ。名前を聞くことで話がこじれるなら、やはり聞かないほうが良さそうだ。


「んー」


 魔女は俯き身体を拭く手を止め、少し考えていた。


「君に信用してもらうためには必要なことか」


 何かぶつぶつ言っている。


「リリベル」

「え?」

「リリベル・アスコルト」


 素っ裸で真っ直ぐにこちらを見つめる魔女は、言い終わると柔らかい表情で微笑んだ。

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