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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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町が2分の1になる!!!

 極限まで気が狂ったリリベルを雪玉から引っこ抜くと、彼女の顔は真っ赤になっていた。

 俺の冷えた手で彼女の顔を触っても、彼女の顔の方が冷たい。頬も鼻先も耳も真っ赤で鼻水はだらだらと垂れ流されている。

 首を引っ込めて肩を震わせている彼女を見ていると、庇護欲をこれでもかと掻き立てられる。彼女がこれを狙ってやっているのだとしたら、悪女である。

 例え悪女だったとしても、彼女の鼻から出ている粗相を見逃す訳にはいかない。布で鼻を優しく拭き取る間に、リリベルに宿へ戻ることを提案する。


「リリベル。宿、宿」

「うん、そうだね」


 やけに落ち着いているが、もしかして雪の中で窒息死していないだろうな。




 リリベルの気が済んだところで、俺たちは衣料品店の宿屋に戻ろうと地図を見ながら歩き帰る。

 町の中心地に近ければ近い程、道は入り組み複雑化するので、地図があって良かったと思う。


 昨夜、世話になった衣料品店まで距離がすぐそこだから、帰路が苦にはならない。

 中途半端に灯された街灯を頼りに、薄暗い雪道をただ言葉も無く歩く。俺たちの足音以外に音は無い。とても静かだ。


 寂しい帰路だが、次の角を左に曲がればもうすぐ衣料品店に到着する。2人に指差しを見せて次の道を曲がることを伝えて、一足先に俺が曲がる。

 曲がってから左側の家を3軒先が衣料品店のはずだが、窓の明かりが無い。これだけ暗いのだから既に店は閉じているだろう。

 しかし、店は主人の家でもある。一切の明かり無く真っ暗だとは思わなかった。もう眠りについてしまったのだろうか。

 そう思いながら店の前まで来たところで違和感を感じた。

 あれ、確か衣料品店なのだから大きな窓ガラスに衣料品を展示していたはずだが、それが無いな。もしかして、曲がる道を間違えたのだろうか。


 良く見ると扉の上に看板があって、そこには「スグレット武具店」と書かれていた。やはり道を間違えたようだ。

 慌てて地図を広げて現在地を探し出す。道幅と道そのものの形から、俺たちがいる場所を推定してみるが、多分曲がる道を間違えたと思われる。

 もう1つ先で曲がる必要があったと思う。


 後からついて来たリリベルたちに「スグレット武具店」の看板を指差してから、「もう1つ先だった」と言って道が間違えたことを伝える。

 2人とも無言のまま頷き、道を間違えたことを納得する。




 先程曲がった角まで戻って、もう1つ先の角まで進んでから左に曲がる。

 いい加減寒いし、お腹も減ってきた。早く宿に戻って身体も心も落ち着けたくて、少しばかり足早になる。


 左に曲がって3軒目の家の前まで辿り着き、やっと休むことができると意気揚々と扉の上の看板を見上げて、衣料品店かどうかを確認する。


 だが、看板には「スグレット武具店」と書かれていた。

 姉妹店か?


 いやいや、どちらにせよ地図を明らかに読み違えたのだろう。道に迷ってしまったのだ。


「すまん」


 俺は両手でバツの形を作って、彼女たちに道に迷ったことを伝える。

 しかし、リリベルは手を顔に添えて考えごとをしている。道を考えてもらっているのかもしれないと思ったのだが、次の一言でそうではないことを知る。


「これ、まずいかも」

「どういうことだ?」


 彼女は掌を水平に下げて、俺とリリフラメルをここで待つように指示を出した。

 俺が頷いた途端、彼女は逆方向に走り始めて、あっという間にその姿をくらましてしまう。か弱い女の子とは思ない足の速さは、どうも慣れない。

 彼女を1人にする訳にはいかないと急いで追いかけようとしたところで、後ろから足音が聞こえ始めた。こんな静かな場所で急速に距離を縮める何者かに、気を向けない訳にはいかないので、振り返って姿を確認してから、リリベルを追いかけようとすることにしよう。


 だが、振り返って向こうから走って来る者が、頼りない明かりの街灯に照らされたところでリリベルを追いかける必要が無くなったと気付き、同時に驚く。


 黄色のマントを羽織った彼女が、走り去って行った方向とは逆の方からこちらに向かって来たのだ。


「え、あれ」


 リリフラメルが動揺して思わず声を上げているが、正直俺も同様に動揺している。

 走ったことで白い吐息を大きく口から漏らすリリベルが、眉を下げて困ったような顔になりながら、俺の胸元に飛び込んできた。


「同じだね」


 彼女はただ一言述べて、俺の服で鼻を拭く。


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