性格が2分の1になる!
手紙の差出人であるアレンは犬だった。
今は犬ですらなく見た目で言うならば半獣人に近しい。
ただ顔の半分がごっそりと失われていて、よく喋ることができるなと思う。
寒空の下、彼の家があった場所だけが綺麗に空き地と化している。
リリベルは鼻水を垂らしながら、両手を腰に当てて自分が思う格好良いポーズを取っている。
鼻水のせいで格好はついていないので、時折拭いてやる。
「君が私をアレしたんだね」
「アレ……アレとは何でしょうか……」
詳しく語ってしまうと、語った文章に紛れた何らかの言葉が現実になってしまう可能性がある。それも2分の1という中途半端な状態で。
リリベルがアレンに対して言うアレは俺にも分からないので、フォローができない。
彼女のことを察してやりたい気持ちはあるが、それが実現できないもどかしさを紛らわすために彼女の鼻を入念に拭く。ズビビという鼻音が聞こえる。
「まあいいや。それで、ここで起きてることに心当たりは?」
「ないです。無い、と思います」
「君のその姿は……」
「私は喋るのが好きな人間ですから、独り言なんかも多くて。喋っているうちに色々なことが起きてしまって――」
「あ、ちょ、ちょっと」
リリベルが慌てて静止したが遅かった。
急にアレンが顔を背けてこれ以上の会話を打ち切ろうとしてしまう。
彼は喋るのが好きな人間から、あまり好きではない人間になってしまったのだ。
「アレンさん……?」
「……はい」
俺の問いかけに彼は力無く答えた。
先程までの軽快な話し方とは打って変わって、会話に対する積極性が失われてしまっているようだ。
「はあ……」
いつも元気ではつらつな姿を見せるリリベルが、こんなに大きな溜め息をつくなんて珍しい。
「アレン、君は無口だ。話すことが大嫌いだ」
「いえ、そんなことはありません」
アレンは背けていた顔を元に戻して、会話する意志を取り戻した。
ただ、話したがりだった時の彼と比べて今の彼はあまり目を合わせてくれない。会話をしてはくれているが、そこまで会話が好きな人物という印象を与えない。
この現象のたちの悪いところは、明確な物差しが無いものが1度半分にされると元に戻すことが非常に困難だということだ。
例えば数字という明確な物差しがあれば、元の数字の倍を言葉にすれば良いだけなので簡単ではあるが、性格という人の主観でしか語ることのできないものは元の状態から倍の状態を言い表すことは難しい。
今の俺の頭では全く思いつかない。
アレンとの会話で得られる情報はなかった。
ろくな会話ができないのだからそれは当たり前のことだろう。
だがリリベルは不敵な笑みを浮かべて、ふふんと鼻を鳴らした。ついでに鼻をすすった。
「当ては?」
「この現象の範囲」
この言葉の意味は察することができた。
彼女はこの現象が起きる範囲を調べようとしているようだ。
「なぜ?」
「うん? 中心点」
この言葉の意味を察することは難しかった。
現象が起きる範囲を調べて、その位置の中心部分を特定しようとしているのだろうか。
それを調べて何が分かるのだろうか。
だが、リリベルの自信有りげな笑みは信頼できる。
心強いことこの上ない。




