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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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犬が2分の1になる!

「あ、驚かせてしまってすみません」


 黒い犬が喋った。


「喋った」

「喋ったね」


 リリベルたちも驚きの意味を込めた素直な感想を呟いた。


「あ、もしかしてその色は……魔女様でしょうか」


 黒い犬は、見た目の禍々しい風貌とは異なってかしこまった態度で喋る。

 半分になった家から半分になった顔をひょこっと覗かせる。

 不気味ではあるが不思議と恐怖することはなかった。


「そう。大体そうだね」


 リリベルが自分を魔女と断言できなかったのは、恐らく犬の発した言葉に起因するのだろう。


 犬が色を見て魔女かどうかを判断したということは、黄衣(おうえ)の魔女の外見に関する知識を持っていたということだろう。

 この町で彼女を知っていそうな者は、彼女の友人か手紙の依頼主ぐらいだろうし、彼女が現在活動している地域を考えると後者の方が確率は高いような気もする。

 だから犬に対して質問するならこうだ。


「もしかして、アレンさんですか」

「そうです、ということは手紙を読んでいただけたのですね」

「大体読んだ」


 半分に破られた手紙に書いてあった差出人と同じ者だと犬は言う。

 人間ではなかったのかと驚く。


 いや、そもそも犬に筆が持てるのか?


「どうぞ、お上がりください。といっても上がる家が半分しかありませんが」


 その瞬間、半分に割れていた家が更に半分になってしまった。

 突然の突風がやって来たかと思えば、家を軽々と持ち上げて遥か空の彼方へと飛び立ってしまったのだ。

 残った家は、2階建てということもあり半分の半分という支えを失った不安定な建ち方になってしまい、間もなく音を立ててその場に崩れ落ちて犬を飲み込んでしまった。


 少しの沈黙があってから、犬は頭をうなだれさせて後悔し始めてしまう。明らかに彼の言葉によって家が破壊されたと考えていいだろう。


「ああ、またやってしまった……」


 またということは、彼は以前にも同じような過ちを繰り返したのだろう。

 そう考えると、もしかして犬の姿をしているのは彼のうっかりの産物なのではないかと考えてしまう。


「えーと、アレンさん。貴方のその、何ていうか、見た目って……」


 リリベルに代わって俺がアレンという黒犬と会話をしようと試みるのだが、言葉を選ばないと予期せぬ事象が発生してしまいかねないので、上手く言葉にすることができない。

 このもどかしさにやはり辟易してしまう。


「言いたいことは何となく分かります。私は元々人間でした。あっ……」


 彼は口を滑らせ過ぎである。

 今度は犬の姿がみるみる変形していき、人型へと変化した。

 身体の構造を一切無視して、紙をくしゃくしゃに丸めるみたいに歪な変形を見せたので、変形後の彼が問題無く動いているのには驚かされる。


 変形後の彼は、2足で立ち上がり人間のような動きでその場をうろうろと歩き回り始めた。

 ただ、見た目は完全な人間ではなく、本来横についている耳が頭の上にあり、顔を含めた身体全体は黒い毛で覆われていた。

 顔半分は無いままだ。

 人間というより半獣人(ハーフビースト)だ。


 アレンは自身が人型に戻ってから、服を着ていないことに気付くとすぐに手で局部を覆い隠し恥ずかしがる。


 これ以上彼のうっかりで事態が訳の分からない方向へ持っていかれる前に、人差し指を立てて口元に持っていき、「喋らないでください」という意味を込めて意思の疎通をはかる。




 リリベルたちの方へ振り向くと、彼女たちも俺と同じポーズを取ってアレンに行動の注意を促していたことが分かった。


 ややこしいことこの上ない。


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