家が2分の1になる!
翌朝、衣料品店の主人に手紙に書いてある中途半端な名前と中途半端な住所の文字を見せて、どの辺りにあるのか確認してみた。
言葉には出さず、指だけ差して方向は左の方か右の方かと尋ねる。
主人は最初こそこの町に適応しかけている俺を見て驚いていたが、すぐに順応し俺に合わせて指で方向を指し示す。
人差し指を2回左に振り、その後3度振る。また左に振った後、今度は右に5度振る。
何度も指を振る彼の行動の意味を探らなければならない。
左の方向に指を2回振った行動は、その方向に向けて2区画分進むという意味だろうか。
少なくとも曲がるという意味ではないだろう。
というか、この主人は察しが良すぎるだろう。
衣料品店を後にして俺たちは、店の主人に教えてもらった方向へ進むことになった。
朝ではあるが生憎の曇天かつ雪が降っている。
寒いしあまり明るくなくて元気が出るような天気では無い。
それでも目的地があるだけマシだ。
当てのない調査程辛いことはない。
「朝食!」
「朝食!朝食!」
衣料品店の主人に教えてもらった道を進もうとしたら、後ろから2人の女の子から単語が飛び交ってきた。
振り返るとリリベルが両手を上げて威嚇していて、リリフラメルは足をとんとんと音を立てて地面を叩き苛々していた。
そういえばまだ朝食を食べていなかった。
しかし、朝から食事ができる店などあるだろうか。
とはいえ主人と部下の願いを聞き届けない訳にもいかない。
「朝食!」
「朝食!朝食!」
「分かった分かった」
お前たちは言葉を覚えたての子どもか。
しばらくそこら辺を歩き回っていたらパン屋を見つけたので、そこでパンをいくつか買って朝食を済ませた。
行儀が悪いが早く依頼主のもとへ行きたいということもあって、2人にはパンを食べながら歩いてもらった。
温かいパンを口に含むたびに吐息からすごい量の煙が出てくる。その煙を追いながら目的地付近まで歩いて行く。
主人に教えてもらった道順で辿り着いた場所は、町中のためいくつも家が建ち並んでいる。
どの家も2階建てで外観が似たり寄ったりしている。統一感はあるだろうが、逆にどれも同じように見えてしまう。
どの家が依頼主の家なのか皆目見当もつかない。
適当な家の戸を叩いて、手紙に書いてある名前に覚えのある人物を見つけ出すしかないだろう。
まずは1番近くにある家から聞き込みしようと、家に近付き扉を叩こうとした。
扉を手の甲で叩いて訪問を伝えようとしたその時、突風が突然吹き荒れた。
寒い場所で突風が吹けば、より寒さを身体にはっきりと伝えてくれることは分かっていた。
滅茶苦茶寒くて思わず顔を背けるが、それ以上に風の力が思ったよりも強く、身体が吹き飛ばされそうになってしまう。
慌てて足で地面をしっかり捉えるように踏ん張り堪えて風をやり過ごす。
横目にリリベルたちの姿を確認してみたが、2人ともその場でへたり込んでいて今のところ無事のようだ。
しばらくして突風が収まると、やっと目を開けられるようになる。目を開け続けていたら寒さで目玉が凍りつくのではないかと思えるぐらい寒かった。
「リリベル、リリフラメル」
2人ともゆっくりと立ち上がって服やマントについた雪を振り払って、それから親指を立てて俺に笑みを見せてくれた。
2人とも怪我は無さそうで良かったと思ったら、2人の表情が笑顔から一変し、凍りついたように固まってしまう。
「どうした?」
リリフラメルが人差し指で俺を指差し始めた。
俺の身体に何か付いているのかと衣服のあちこちを確認してみるけれど、特に変わったところはない気がする。
「ヒューゴ君! 後ろ!」
リリベルの焦ったような声に何事かと後ろを振り向くと、目に映ったその景色に思わず俺は声を上げてしまった。
先程まであった家の扉が縦に真っ二つに割れていた。
扉どころか家自体も丁度真ん中で半分になっていて、家の中にあった家具やら何やらかが飛び出してきてしまっている。
無くなった方の半分は残骸の欠片1つ無い。
そして、半分になった家の中から大きな黒毛の犬がとことこと歩き出て来る。
その犬の姿を見た瞬間、ただならぬ雰囲気を感じ取る。
警戒心を最大にして犬を注視する。
なぜなら、その犬は2階建ての建物と同じぐらいの大きさのある犬だったからだ。
最早それを犬と呼んでいいのか分からなかったが、見た目は犬にしか見えないから今のところは犬と呼ぶしかない。
真っ二つになった家から顔を覗かせて俺の姿を視認した犬が、顔だけ真正面を向く。
犬の顔は半分しか無かった。
次回更新日は2023年1月1日予定です。




