宿屋が2分の1になる!
やはりというべきか、雪が積もって融けないでいる程度には寒いから、外を出歩く者はかなり少ない。
偶然見つかった町人を呼び止めようとしても、中々つかまらない。
黄色のマントを羽織った変人が2人もいるから避けられたという可能性もある。
しかし、いくらなんでも避けられ過ぎではないだろうか。
たまに2人以上で出歩いている者もいたが、彼らもしくは彼女らは口裏を合わせているかのように会話を拒否する。
それどころか声をかける前の彼ら自身が、全く言葉を発し合っていない。
まともな会話ができたのは町の門前にいた見張りだけだった。
町に入ってから雰囲気がガラッと変わった気がする。
「参ったね。これじゃあ依頼主の居処が掴めないよ」
リリベルが俺のマントを両端から引き寄せ、そのまま俺の胸に収まり暖をとる。
彼女は顔を上げて俺の返事を伺ってきた。
多分、俺が良い回答をできないと分かったら、彼女はこの依頼から手を引いて、ただ俺に雪を見せ楽しませることだけに集中するだろう。
リリベルの魔女としての名誉のためにも、彼女に簡単に諦めてもらっては困るので、何とか解決の道を探りたい。
「なあなあ。用事が簡単に済みそうにないなら、宿の当てでも探そうよ」
リリフラメルが俺のマントをつまんで呼び掛けてきた。
この依頼がすぐには解決しないと判断したのか、彼女が休む場所を探す提案をしてきた。
彼女はリリベルを嫌っている訳ではないが、基本的に俺に意見を求めてくる。
彼女としてはリリベルに従っている訳ではなく、俺に付き従うと決めているようだ。
実際に面と向かって言われたのだ。
『私はリリベルではなく、お前に付いていくと決めた。これからはお前のために私は動く。だからお前が私に命令してくれ』
リリベルが俺に対して命令を与え、俺がその命令に従えば、自動的にリリフラメルも従う。
俺が是と言わない限り、リリベルの言葉があったとしても彼女は從わないだろう。
俺はあくまでリリベルの騎士だ。これまでもこれからも。
だから俺はリリフラメルに対して、リリベルを1番に考えて欲しいと常日頃言っているのだが、今の所彼女は首を縦に振ってくれていない。
難しい問題だ。
だが、彼女の言う通り宿の当てを探した方が良さそうな状況であることも確かだ。
「そうだな。先に宿を探そう」
リリベルと言葉を交わさずに会話をして、彼女の肯定を得る。
リリフラメルは意気揚々と宿の看板を探し始めた。
だが、悲しいことに宿は探せなかった。
正確には宿の当ては見つけられたのだが、そこはれっきとした宿屋ではなくただの衣料品店だった。
もちろん人が寝る部屋は余分に用意されていないので、倉庫で寝泊まりすることになる。
これまでのできごとと同様に、宿屋に立ち入ることができなかったのだ。




