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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第8章 全てが2分の1になる!
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食事が2分の1になる!

 店内の窓から外の様子を覗くと、雪を降らせる雲が厚いためか、昼間でありながら辺りは少しだけ暗い。

 そのため街灯が照らされていて周りの明かりを保っている。


 街灯に詳しくないので、エネルギー源を何で(まかな)っているのかは分からない。魔力石かもしれないし、油かガスが補充されているのかもしれない。

 いずれにせよ、気になっていることは明かりが照らされている街灯は半分程しかないことだ。故障しているのだろうか。




 俺たちが入った店は菓子店だった。

 食事を摂るなら、肉とか魚とか食事感を味わえるものが良い。俺にとって菓子はデザートとかおやつの印象を与えるからだ。いや、きっと俺だけでなく大体の者はそう思うだろう。


 しかし、実際に店の中に入ることができたのは、この菓子店なのだ。

 もちろん食事らしい食事を用意している店はある。むしろ先程町中を歩いて来た中で見つけたこの菓子店の方が食事を摂る店としては珍しい店だろう。

 だが、どの店も中に入ろうと扉に手をかけた瞬間、それ以上の進入ができなくなる。やる気がでなくなるのだ。


 明らかに異常だ。

 食事をとりたいから、料理店に入りたいという俺たちの意見が結果に反映されない。

 唯一店の中に入って席に着くことができたのが、ある意味では料理を売っているこの菓子店だった。




 甘い物で腹を満たすのは気が進まないと思っていたが、メニュー表を見ると意外と普通の料理があってほっとする。

 パンもあるし、スープもあるし、魚や肉料理もある。

 随分と広義な菓子店である。


 ただ、どの料理も異様に値段が高い。

 やはり雪が降る地域だと、輸送の手間が増えて物の値段は上がってしまうのだろうか。

 雪国の町での食事はここが初めてなので中々判断し辛いものではあるが、それにしたって俺に取っては高いと思う。


 例えば野菜のスープならば、フィズレだったら銅貨10枚ぐらいで食べられるが、この店のメニューだと銅貨40枚が必要だと書いてある。

 もし3人で腹一杯に食事を摂ることになったら、この店でなら馬の1頭は買える程に代金がかかりそうだ。


 ただ、これまで解決してきた依頼の報酬や、リリベルの魔力を込めた魔力石の販売で金が無い訳では無い。

 正直に言うと、これだけのぼったくり価格でも代金を払うことはできる程の余裕はあるのだ。

 だが、値段が高いからと言って、また寒い中リリベルにこれ以上外を歩き回らせるのは嫌だったので、俺たちはこの店で食事をすることに決まった。






 食事が終わったのは幾らかの時間がかかってからだった。おそらく通常の食事の時間よりは長かったと思う。


 頼んだ食事の感想は率直に言うと最悪だった。

 まず注文を行ってから食事が来るまでの時間が長い!

 一体いつになったら食事が出てくるのかと文句を言いたくなるくらいの遅さだ。


 暖かい食事を頼んだはずなのに、俺たちに出されたものはどれも生温(なまぬる)い食事ばかりだった。おそらく料理を作った時間自体は短かったのだろう。

 だが、実際に俺たちに届くまでの間に何か別のことをしていたのだ。


 客が多くて料理を運ぶのに時間がかかったというなら理解できるが、客は俺たちの他にいない。

 故に作った料理をすぐに持ってこない理由は無いのだ。


 次に食事が全体的に極端な味付けだった。

 この肉の煮込み料理は、ソースが赤く濃い見た目の色の割に尋常では無いぐらい薄味なのだ。

 どの料理も丁度良い味の料理が無い。


 そして、どれもこれも量が少ない!

 食べかけでも食わされているのか、それとも食料難の町なのかと勘繰ってしまう程、量が少ないのだ。

 3人分のサラダを頼んだはずなのに、どう考えても1人分か頑張って2人食べられる分しか無い。

 俺が大食いという訳では無い。リリベルに比べればむしろ小食な方である。

 だが、そんな俺でも胸を張って言えるぐらいには量が少ない。


 ある意味で地獄の店で、2度と行きたくない店である。




「食事も済んだしとりあえずもうこの店を出て、依頼主の場所を探すことにしないか? 何だかここは、居心地が悪い……」

「そうだね。そうしようか」


 この店に入る前は、建物の中だから暖をとることができると思って意気揚々と店内に入ったはずだが、実際に中に入ってみると思ったより暖かくない。

 暑い寒いの感覚で言うなら、涼しい。

 涼しいのだ。


 だが、この涼しいが快適かと言うと、絶妙に快適では無い。

 良い具合に居心地が悪い店である。


 料理の腕が立つリリベルからしてもこの店は気に食わないらしく、小声で何度か「私の方が美味しい料理を作ることができるよ」と呟いていた。




 店を出る前に会計を済ませようと店員に話し掛ける。

 さすがに馬1頭分の食事まではしなかった。

 余りにも食事の代金が高額になりそうなので、計算をしながら食べた。細かい男だと言われて2人に蔑まれても文句は言えないが、さすがにこの店の代金は異常だと思ったのだから仕方ない。

 計算したところ銀貨12枚程の食事をした。フィズレだったら1人で12食は食べられる。


「お代は銀貨6枚さね」


 料理を運んで来てくれていたおばさんが、そう言った。

 何度もメニュー表を見ながら、頼んだ料理の計算をしていたから間違っていないはずだ。

 だから彼女の言葉を信じられなくて聞き返すしかできなかった。


「あれ、代金が安くないですか?」


 自分で安くないかと聞いてみたが、よくよく考えたら銀貨6枚でも割高だ。

 ただ、1人あたり銀貨4枚から2枚に変わったことを考えると、食料などの輸送の話を想像して加味すれば、あり得なくもないと思った。


「いや、合ってるよ。お代を出してみれば分かるさ」


 おばさんは笑顔でそう言うが、全く意味が分からなかった。

 意味が分からないが、せっかく銀貨12枚より安くなるなら嬉しいことはない。


 いや、もしかして、新手の詐欺か何かじゃないよな。


 一瞬、そのような疑念を持ったが、首を振って大人しく袋から銀貨を取り出そうとする。




 だが、6枚の銀貨を取り出そうとしても、取り出すことができない。

 どんなに歯を食いしばって気力を振り絞っても、6枚の銀貨をおばさんに渡すことができないのだ。


 もしかしたら手がかじかんで上手く硬貨を手に取ることができないのかもしれない。

 俺の手はしっかりと感触を感じるし、手が震えている訳でも無いのだが、考えられる理由が今のところそれぐらいしか無いので、そう思い込むことにする。


 落ち着いて銀貨を1枚ずつおばさんに手渡すことにした。


 1枚。2枚。3枚。




 そして4枚目を袋から取り出そうとしたその瞬間、俺の手は袋から何も掴まずに出てきてしまった。

 俺の意志を無視した手に叱ってやりたいところだが、そんなことをしたら変人としておばさんやリリベルから白い目で見られるだろう。


 何度4枚目を取ろうとしても失敗するので、そのもどかしさにリリフラメルより先に怒りを発しそうになるかと思った。

 だが、その前におばさんが一言俺に放った。

 彼女は俺の行動をまるで慣れ親しんだ景色を見るような表情で返してきた。


「毎度! ()()6()()()()()()()()()()()!」


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