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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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幸せを喰む者より、憎悪を込めて5

 私含めてこの場にいる者は皆、ボケた老人の集まりになってしまったね。


 私の後ろにいる2人の名前が思い出せないよ。名前は思い出せないけれど、多分味方なはず。

 その2人に私の異物感を分け与える。2人に直接触って魔法を使う時と同じような感覚で、名も知らないたくさんの死者の魂を送り込む。

 無事に成功すれば良いけれど、何分初めて地獄で魔法を使うので、本当に上手くいっているかは分からない。


『泥塗れになろうかな!』


 泥を扱う魔女は、言葉と共に身の回りにあった泥を更に巨大化させる。泥で作られた巨人ができあがり、4本の腕が私たちを金属の波から守る。


 アアイアは私たちを魂ごと抹殺する気は無く、ただ幸せな記憶の一部を欲しているみたいだけれど、果たしてあの凶器に串刺しにされて記憶が消えるだけで済むのか疑わしいと思う。

 泥に遮られて、無数の刃は堰き止められた川水のようにその場に溜まり始める。


 人間の王様は戦い慣れしているのか、私が魂を分け与えた直後から泥の巨人の肩に素早く移動して、敵の様子を見張る。念のため彼に注意しておかないといけないね。


「アアイアの言うルールを聞いていたと思うけれど、わざわざ突撃しないよね」

「無論、突撃する」

「ちょっと!?」


 私は彼を援護する義理は無いから、それ以上の味方はすぐに諦めることにした。お元気で、人間の王様。


破砕(はさい)!!』


 泥の巨人の肩の上にいたはずの王様はいつの間にか姿を消していて、その代わりに守られた4本の腕の先から激しい金属音と何かがぶつかる衝撃音が響く。

 泥が目の前にあった金属の山を薙ぎ払い景色が開けると、部屋の中央にあったはずの階段が跡形も無く消え去っていた。その向こう側の壁は脆く崩れ去っていて、アアイアが見当たらない。崩れた壁の向こう側へ吹き飛んでいるかもしれないね。

 ちょっと驚いたよ。人間の王様は本当にお元気みたいで強かった。


破砕(はさい)!!』


 人間の王様がもう1度剣を振るうと、崩れた壁の瓦礫や金属の欠片が更に奥へと吹き飛んでいってしまった。容赦無い。


「さあ。奴が再び迫ってくるまでの間に、人探しと魂集めを行おうではないか!」


 彼の堂々とした様が私よりもちょっと格好良くて納得いかない。私もあんな風に格好良く魔法を詠唱したかったよ。

 けれど、人間の王様の言う通りで追いかけっこ、もといアアイアの相手をするには魂が必要だ。ここでは魂が無いと魔法が使えない。魂をたくさん吸収しておくに越したことはないね。

 ところでこの追いかけっこっていつまで続くのだろう。




 この部屋に入るために開けた扉のすぐ隣の扉に入ると、先の見えない暗くて長い通路に出る。見覚えのある通路かも。


「ああ、えーと王様と、そこの魔女。こっちだよ」

「えっとヴロミコかな!」


 ヴロミコと言う魔女が既視感のある仕草で自分の名前を確認して、私に告げた。

 そうだった。確かそのような名前だったね。


「私のことはフェルメアの夫と呼ぶが良い。あの異形の者もまた王であるからややこしいだろう」

「呼び名が少し長いけれど、分かったよ」


 2人も新たな通路に入ると、ヴロミコは扉を閉めて泥で固め始めた。今更、泥ごときであの物体が止められるとは思えない気がするよ。

 扉の向こうで再び金属の音が聞こえ始めたとヴロミコは言うけれど、扉を閉めた瞬間に文字通りの()()()()が通路を埋め尽くしているので全く聞こえない。あちらこちらで贖罪とやらに励んでいるみたいだね。


「師匠! さっきの大きな部屋に私の大きな友達で足止めしているから、もっと魔力が欲しいかな!」

「私もだ」


 君たち、燃費が悪すぎるよ。


「それならどんどん鉄格子を外して、魂を私の元へ持って来るが良いさ、ふふん」


 無実の魂を集めて力を付けていく私は、まるで物語に出てくる悪役みたいだ。そういった悪役は大抵の場合、悲惨な最期を遂げるのだけれど、私は大丈夫かな。


 フェルメアの夫とヴロミコは私の号令を受けると、迷うことなく次から次に私の元へ魂を集めてきてくれるのだ。その中にヒューゴ君かフェルメアの夫の妻がいないかを確認してから、目当ての物でなければ私が食べていく。

 魂を食べては次の牢へ進み、食べては進みを繰り返して、ある程度の魂が溜まると2人に分け与える。

 そして、より大きな力を使えるようになった2人は、魔法で効率的に魂を私に届けてくれる。1度に連れて来てくれる魂が2体、4体、8体と増えていき、急いで顔を見ては人違いだったらその魂を吸収していく。

 記憶が曖昧だけれど500人ぐらいの魂は吸収したのかな。それ程、抵抗する魂がいなかったし、2人の手際が良かった。


 長い通路に響いていた自傷行為による悲鳴の数々は、徐々に数を減らしていくけれど、少し奥へ進めば再び悲鳴は聞こえ始めてくる。一体この通路はどれだけ奥まであるのだろうと思ったのだけれど、世界中で誰かが毎日死んでいて、ここで魂の清算をしばらく行わなければならないことを考えると、きっととんでもない量の魂が存在しているような気がしてきた。




 真後ろから何かが破壊される音と、耳障りな金属音が何重にも聞こえてきた。

 その音がすると同時にヴロミコが頬を掻きながら私に報告してきた。


「師匠、部屋に置いてあった私の泥人形が壊れちゃったかな」


次回更新日は12月4日予定です。

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