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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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地獄より、愛を込めて6

 これでこの男と半獣人(ハーフビースト)の女との間に、全く関係性が無かったら笑えるね。


 でも、半獣人の方は男と口づけをしてから、先程までとは打って変わってしおらしい態度になっている。どうやらゼデが連れてきた者はそれぞれにとって、最も大切に思う者であったことは間違いないようだ。


 赤の他人の情事程、興味が湧かないものはない。




 これで白い半獣人の願いごとは多分叶えられたと思うから、後は気兼ねなく地獄の王様と戦うことができる。


 ゼデとかいうもう1人の王様はいくら見回しても姿を確認できない。

 アアイアの巨大な三日月型の刃にあっさりと押し潰されてしまったのかな。


 だとすると、この地獄から出られる方法を知っていそうな者は、アアイアぐらいしかいないような気がするのだが、彼は私たちにご執心のようで話を取り合ってくれそうにない。

 取り合ってくれるようにするためには彼に、私たちを狙うよりことも大事なことがあると教えてあげるしかない。


 彼の本体を探して拘束し、脅すのだ。

 さすがに地獄の王様も、自身の存在を維持するための(いのち)は惜しいはずでしょう。

 それでも私たちを襲おうとするなら彼の魂を消し去るしか無いよね。


 ヒューゴ君の頭を叩いて再び行き先を誘導する。

 アアイアの口らしき部分から飛び出ていた青白い光を放つ刃。あの刃が彼の(ほんたい)のような気がするのだ。

 だから、ヒューゴ君に魂たちの波を掻き分けさせて、部屋の中央にある円形の階段の頂上に登らせることにした。この部屋の頂上からならお目当ての刃を探しやすいと思ったからね。


 ヒューゴ君は私を背中に乗せたまま、するすると魂を掻き分けて、階段の頂上に登り着いた。

 ロッキングチェアが1人悲しく音を鳴らして揺れているけれど、それは無視して青白い光を探す。


 ヒューゴ君の兜が邪魔で見渡し辛いけれど、彼から身体を離す訳にもいかないので、ロッキングチェアの背もたれに手を掛けて身を少しだけ乗り出して、光を探してみる。


「見つけた」


 どこから聞こえているのか分からないような声。直接頭に響いているような声。

 アアイアの声だった。


 噴水のように部屋の壁から無数の刃が音を立てて湧き出ると、この部屋の壁周りを囲い始めた。

 牢獄に向かうたくさんの扉が全て塞がれてしまったのだ。困ったね。


 するとこの部屋に入ろうとしていた魂たちは、刃の壁に阻まれて進入することができなくなる。

 部屋を泳いでいる魂の波の動きが止まり、この部屋の魂の数に上限が無理矢理設けられてしまった。


 更に無数に湧き出る刃は部屋の中央へ向かって迫り来る。

 刃に刺されたり切られたりする魂たちが悲鳴を上げて、痛まずに済むように部屋の中央を目指し始める。亡者の群れにしか見えないね。




 これだけの刃の数があっても、さっきみたいに青白い光を放っているなら目当ての刃を見つけることは難しくないはずなのだけれど、不思議なことに見つからない。

 三日月型の刃が床から離れて再び浮き上がっているから、青白い光はより輝きを増しているはずだと思う。




 部屋の壁を覆う武器や迫り来る刃の波をいくら見回しても光は確認できない。

 この部屋で他に目立つ存在は、ありとあらゆる武器を組み合わせてできた蛇だけだ。私とヒューゴ君でばらばらにしてやった蛇は、もう形が元に戻っていた。


 蛇の顔先は私たちの方へ向けられていて、長い身体は蛇腹に折り畳まれている。彼の飛びかかる準備は既に万端だ。




 今度は同じ轍を踏む訳にはいかないので、手を差し向けて魔法を詠唱する準備をしておかないとね。


 蛇が一気に折り畳まれていた身体を伸ばして、階段の頂点にいる私たちへ向かって距離を詰めてきた。

 私たちを噛み殺そうとするべく蛇が口を開くと、口奥から青白い光が放たれるのが見えた。口の中にいたのだね。


 でも、都合が良かった。


瞬雷(しゅんらい)


 私が今知っている雷の魔法で1番速い魔法を詠唱する。


 このまま蛇が私たちに向けて直進すれば、雷は口の中を一直線に貫いていく、はずだった。


 私が掌から雷を放出したその瞬間、刃の蛇を含めて、視界に入る全ての武器たちが突然静止し、天井に向けて刃を上向けた。部屋全体を酷い金属音が響かせる。




 問題は、その行動のせいで蛇の口を貫くはずだった雷が、少しだけずれて当たってしまう。

 まさかタイミングをずらして攻撃してくるとは思わなかったね。


 蛇の顔がバラバラに弾けて中が丸見えになったけれど、青白い光はまだ健在みたい。




 一瞬だけ静止した蛇が、再び突進を再開し私たちの方へ迫り来る。

 けれど、その寸前で蛇の真横から大きな泥の塊が吹き飛んできて、蛇をあっちの方向へ殴り飛ばした。

 泥の飛んできた方向を見ると、4本の腕を持つ巨大な人型の泥が出現していた。


「師匠! 真上かな!」


 泥の方から聞き覚えのある子どもの声が聞こえて、彼女の言う通りに真上を見ると三日月型の刃が丁度私たちの真上にいた。

 蛇の攻撃が失敗した場合に、アアイアが次の手としてあの刃を振り落としてくることはすぐに分かった。


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