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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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地獄より、愛を込めて4

 蛇の口が大きく開いたまま、魂たちを薙ぎ払い消し去りながらあっという間に私たちの所まで辿り着く。後は口を閉じるだけ。


 魔法の1番の弱点。それは高速の攻撃に対処できないということ。

 魔法は魔力の制御と詠唱と魔法陣の想像が正しく行えていないと、力を発揮できない。

 だから近距離での戦闘は向かない。どうしても物理的に斬る、叩く等の動作に1歩遅れてしまうのだ。


 私はこの蛇の口に対応できない。




 対応できたのはヒューゴ君だ。




 私の中にあった魂たちが、いつの間にか彼に吸い取られていたと気付いたその瞬間には、目の前に全身を真っ黒な鎧の男が登場し、蛇の前に立ち塞がる。

 黄色のマントを持ったまま黒い鎧を纏った彼は、兜と胴の間から黄色いマントをはみ出させている。まるでマントを取り付けているように見えるけれど、実際はただ鎧に挟んじゃっているだけだ。パッと見た感じは格好良いけれど、良く見ると格好悪い。


 剣の刃でできた歯が閉じ切る前に、彼の両手がそれぞれ歯を掴む。蛇の閉口は彼によって阻止された。


 彼と離れ離れになってしまうと、ヒューゴ君をヒューゴ君と認識できなくなってしまう。それなのに無意識に私はヒューゴ君に背中から抱きついて再び彼を認識していた。

 なぜ、そうしたのか理由を説明することはできない。

 理由を説明できない行動を、私は嫌いに感じる性格だったはずだけれど、とにかく気付いたら彼に抱きついてしまっていたのだ。何か文句あるかい。


 そのまま左手を開いたままの蛇の口の中に向けていつもの魔法を放つ。


瞬雷(しゅんらい)




 雷が蛇の胴体を真っ直ぐ貫いている間に、言葉の概念すら失われてしまったヒューゴ君がなぜ私から魂を吸収し、鎧を身に纏うことができたのかを思い出す。


 少し考えただけですぐに原因を思い出すことができたのは、私にとって最も印象深い思い出だったからだろうね。

 そして、今まで忘れていたのはその原因になる思い出が、隠しておきたい思い出だったからだ。


 そうだ。そうだったね。


 私と彼が主従の関係を結ぶために交わした契約は1つだけではない。彼に言わせた言葉で、私と彼は2つの契約を結んだのだった。


 私の頭の中で浮かべた2つの魔法陣と魔力と、彼の詠唱でそれらは無事発動した。


 1つ目は、使役の契約。

 私の名前を詠唱の中に盛り込むことで、私の魔力は全て彼のものになる。彼の好きな時に私の魔力を自由に使うことができ、私には一切の拒否権が無い。

 彼に使役されている私は、彼を殺すか彼に契約解除の詠唱を言い渡されるか以外では契約を解除することはできない。


 その契約のおかげで彼は、私が吸収した魂を無条件で彼の元に引き寄せることができたのだ。




 そして、2つ目に交わした契約は『魔女の呪い』だった。




 ごめんね。

 私は君に『魔女の呪い』をかけたのだったね。


『魔女の呪い』で君が叶った望みは、あらゆる物体を生み出す()()()使()()()こと。


 君が使う魔法は、物を生み出すことに関してだけ言えば、通常の魔法の概念から外れている。魔力さえあれば、魔法陣も詠唱も本当は必要無いのだよ。


 その契約のおかげで君は、言葉を発さずとも鎧を身に纏うことができたのだ。




 そして、叶った望みに対する代償はただ1つ。

 君は()()()()()()()()()()()()()()ということ。


 君が鎧を身に纏う度に、黒い剣を生み出す度に、黒い盾を生み出す度に、私は必ず死ぬのだ。

 謎の傷を負ったり、心臓が破裂したりすることなんてない。強制的に私に死という概念が訪れる。


 ただし、私は私自身にかかった呪いのおかげで死ぬことは無い。

 今更私が死ぬ原因が1つ増えたところで困ることは無いから、代償に関しては特に気にしていないよ。




 それよりも、本当は君があらゆる魔法を使えるようになって欲しくて色々仕向けたつもりだったのに、君の強い願いのせいで狭い範囲での望みしか叶えられなかったのが悔しいかな。


 君は一体、それ程強い想いを込めて叶った望みで()()()()()()()()()()()()()のだろうね?

 とても興味深いよ。

 だって、極限まで自分の身を犠牲にするような気持ち悪い優しさを持つ君が、自分の欲望を見せた瞬間だったのだもの。

 興味深くて興味深くて堪らないよ。


 だから、()()を知るまでは、到底ここで終わる訳にはいかない。

 同時に、君と交わした契約の真実を明かす訳にもいかない。


 君の強い欲望が入った心の中心部を覗くことができるまで、私は私の心を君への好意で全て埋め尽くし続けるのだ。

 そうしておかないと、君が何かの拍子に私の心の中心部を覗き、契約の真実に気付いてしまったら、きっと心優しい君は心から苦しみ続けてしまうでしょう。

 そして、呪いの恩恵を受けることを止めてしまうでしょう。挙句の果てには生身で戦いそうだしね。


 だから、この記憶だけは私の魂の中心部に深く閉ざし、隠しておかないとね。

 隠しておきたい強い想いが入った記憶だったからこそ、この世界にいてもずっと忘れることは無かったけれど、中々思い出すこともできなかった。面倒な女だよ。


 さあ。

 彼がなぜ鎧を身に纏うことができたのか思い出せたのだから、もうこの記憶は心の中心部に閉じ込めちゃって良いよ。

 そして、彼への恋心で私の魂を一杯にしよう。


 地獄より、君に愛を込めて。




 さて、目の前の地獄の王様を懲らしめてやることに集中しよう。

 私が放った雷は蛇の口を貫通し、大きな穴を開けていた。

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