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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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監獄より、願いを込めて2

 穴に落ちて視界が真っ暗になったと思った次の瞬間には、私は列に並んでいた。

 穴に落ちてからここで立っているまでの間の記憶が一切はっきりしない。


 黒い穴に落ちたはずなのに、すぐ横には先程の穴が変わらず鎮座している。

 ただ、周囲は荒野ではなく穴を囲むように巨大な壁が存在している。壁は建物の形をしていて等間隔に窓らしき穴がある。窓の数が多すぎて粒のようになっていてちょっと気持ち悪い。


「おい、前が空いてるぞ」


 すぐ後ろから列を詰めろと急かされて慌てて1歩進む。

 列を並ぶ者は多種多様だった。人やエルフ、ゴブリンはもちろん、馬やウサギ、果ては魔物までいる。


 1歩進んで、また1歩進んで謎の列を縮めている間に、たまに穴から叫び声が聞こえてきた。

 誰かに放り投げられたように穴から人が飛んできて、弧を描いてから地面に叩きつけられる。

 よろめきながらも立ち上がると間もなく彼も列に加わる。


 私は後ろを振り返り、先程注意された者へ聞いてみることにした。

 言葉が交わせるので人間かと思ったけれど、振り返って初めて彼の種族が分かった。

 腰から下に足は無く、1本の長い筒状になっている。顔は口が突き出たようになっており、目は鳥のように鋭い眼を覗かせて全身を鱗で覆っている。

 蛇人(サーペント)なんて珍しい。


 言葉が通じるなら種族に興味は無いので、改めて彼に聞いてみる。


「この列って何なのかな」

「知らねえ。いつの間にか俺もここにいたから何も分からねえ。おい、前」


 列が再び空いていたので、慌てて詰める。

 詰めたは良いものの、よく分からない列にこれ以上並ぶ意味があるのかな。

 有名人の握手会を待つ列という雰囲気でもなさそうだし、列を抜けて早く地獄の下を目指そう。


 そろりと足を伸ばして静かに列を抜けようとすると、蛇人の尻尾に遮られてしまった。


「やめとけ。列を抜けようとするとああなっちまうぞ」


 鱗に覆われた指が指す方向を見てみると、1人のゴブリンが列の流れに逆らって駆けている。


「嫌だ、俺はまだ終わりたくない!」


 ゴブリンは必死に走って穴の近くまで来て、勢いそのままに穴を飛び込んだ。

 しかし、彼が穴に落ちることはなく、それどころか急に浮き上がり始めた。彼が手足をばたつかせているのを見ると、どうやら彼の意思とは関係なく浮いているみたいだ。


 浮遊するゴブリンはやがて絶叫を上げる。叫びは周囲の壁のせいで何度も何度も反響して耳障りだ。

 ゴブリンの見た目は引き伸ばされたように身体が薄く平らになっていく。

 そして、絶叫の果てに彼は沈黙する。


 引き伸ばされた彼は浮遊したまま移動して、巨大な建物の壁にぶつかると無理矢理擦り付けられたような動きをしながら、その形を失っていく。雑巾がけでもしているみたい。

 最後には彼の姿が見えなくなり、代わりに擦り付けられた壁の色が彼の体色に変わっていた。


「さっきからこの列を離れようとする奴は皆ああなってる。おい、前」


 1歩前を詰める。


 彼の絶叫を見るに相当痛そうなので、列から離れることは諦めようかな。




 暫くの間、列に参加していた結果、定期的に穴からたくさんの生き物が投げ付けられたように飛び出て来るのが分かった。この地に到達した生き物たちは皆、誰に案内された訳でもなくとりあえず列に並び始める。


 そして列に並んだ者の中からたまに、怯えたりあるいは怒ったりしながら元来た穴に飛び込もうとする者が現れる。彼らは一様に「まだ死にたくない」とか「やり残したことがある」とか言いながら焦ったように穴に向かっているのだ。

 周囲を大きな壁が取り囲んでいるため、大きな声を出すと良く反響して、飛び込もうとする者が遠くにいても割と聞き取ることはできた。

 ただ、穴の下へ飛び込むことができた者は誰1人としていなかった。皆、紙のように薄く伸ばされて壁に擦り付けられて元の形を失う。まるで壁の補修をしているようだ。


 列が進む間隔は絶妙で、この先の思案のために座り込んで休憩しようとしてもすぐに進む羽目になるのでまるで休憩にならない。とはいえ肉体的な疲れは全く無いので立ちっぱなしでも良いのだけれどね。




 列で待つ間、後ろにいた蛇人と何度か話をした。

 彼がこの地に来るまでの直前の記憶を尋ねてみたけれど、深く考えても結局思い出すことはできなかったみたいだ。

 それどころか彼は自分の名前すら思い出せない。


 彼が覚えているのは、ここに来るまでは戦士として国を守っていたということ。戦士としての誇りを強く持っているみたいで、数々の戦いで生き残ってきたことを自慢していたよ。


 戦いの記憶はあるのに自分の名前も覚えていないのは不思議な人だと思うね。


「お前の名前は何て言うんだ」


 彼のこれまでの人生を聞いている内に、今度は彼から私について尋ねられた。

 乱暴な話し方ではあるが、私に対して敵対的ではないようで、少しずつ心の距離が縮んでいたようだ。


「私の名前は……」


 本当は名前を教えてはいけなかった気がするけれど、それがなぜなのかは思い出せなかった。

 大した理由でもない気がしたので、教えてあげようと思ったけれど次の言葉が出てこない。


「リリ……えーと……」


 あれ、私の名前は何だっけ。


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