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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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失った者より、失ったモノを込めて3

「たった1度剣を刺しただけでは終わらぬぞ。お前の男に早く会いたいなら、切りまくれ」


 階段で私と黒髪の男の戦いを楽しそうに鑑賞していたゼデが、茶々を入れてくる。

 けれど、彼の言う通り黒髪の男の魂を完全に浄化するには、もっともっと切らないといけない。

 それこそ彼の罪とやらが完全に消えるまで切り尽くさなければならない。

 問題は彼がどれ程の罪を犯したのか分からないから、一体いつまで切り続けなければいけないのかということかな。


 ただ、黒髪の男を斬り伏せるのは難しいことではない。

 ぼろぼろの剣は重いけれど、魂でできている身体だからなのか疲れを全く感じない。


 対してフェルメアの夫と半獣人(ハーフビースト)の女は、激しい戦いを繰り広げている。

 半獣人が彼の首を噛み付くと、彼はそれを振り払い剣で切り結ぶ。

 しかし、半獣人は痛みを受けたことによる叫びではなく、多分自分を奮い立たせる咆哮を上げて、彼に掴みかかる。

 戦う場は目まぐるしく変化していく元気一杯な戦いに対して、私と黒髪の男の戦いはなんとも単調だ。


 彼はずっとこの世界にいて剣の振り方を忘れてしまったのかもしれない。そうでなければ、私みたいな素人に剣で一方的に負けるはずは無いと思う。


 彼は剣を突き出し、それが避けられたと分かると綺麗に横一文字に振り切る。

 楽に屈んでそれを避けて、彼のお腹に思い切り剣を突き刺す。そのままお腹を掻っ捌いてあげようかと思ったけれど、それ以上の切り込みを彼の盾が許さなかった。仕方ないので引き抜く。


 欠けに欠けた汚い剣で刺された彼の痛みを十分に理解できる。似たような目に遭ったことがあるからね。


 彼は痛みに耐えながらも今度は黒剣を連続で振り始めた。

 1振りごとにわざわざ様子を見ることをやめたようで、勢いに乗って切りかかってきたのだ。


「君、言葉は通じるかい?」


 とても避けやすい彼の剣技に、少しアドバイスでもしてあげようかなと思った。

 敵に塩を送る行為なのに、不意に訳の分からない行動をとってしまったのは、いよいよ私自身の記憶が崩れかかってきている可能性があるね。


 私の言葉に彼からの返事は無かった。

 返事が無かったと言うよりかは、動きが一瞬止まったと言った方が正しいかな。声に反応してくれてはいるみたいだね。


 一瞬の隙の間に私は彼の首に向かって払う。

 すると、首の部分に一筋の空間が出来上がった。これが元いた世界だったら今頃彼の胴体と首は離れているはずだね。

 でも、彼は宙に浮いた首と別れを告げることなく、それらが繋がっているかのように見えたまま動き続けた。


 盾で私を押し退けると、バランスを崩した私に向かって黒剣で切り込む。私は彼に切られてしまった。

 私の声を聞いてから、彼の動きが変わった気がする。

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