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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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失った者より、失ったモノを込めて

 アアイアが去って一呼吸を入れて落ち着くことができたので、改めて私自身の状況を確認してみた。

 金属の蛇に切り裂かれた右手の切断面を見てみるけれど、血が噴き出る訳でもなくただ肉と骨が見えているだけだった。触ってみたけれど痛みは無い。

 あ、ちょっと痛いかも。

 それ以外は特に変化が無く、多分いつも通りの私だと思う。


 次にフェルメアの夫を見てみたけれど、彼は酷く混乱していた。

 彼は自分が王様であったことを思い出せず、自身の過去に疑問を抱いていた。

 フェルメアという妻がいたことは覚えているみたいだけれど、妻と過ごした思い出が幸せだったかを思い出せないみたいだ。

 だから、今の彼は、本当に自分は妻を愛しているのだろうかと半信半疑になってしまっている。

 しかも彼にとって妻との思い出は相当記憶に深く残っていたみたいで、その記憶の大部分から幸せという感情をアアイアによって取り除かれたせいで動揺が激しい。


 1歩間違えれば私が彼と同じ状態になっていたかもしれないと思うと、怖くて仕方がないよ。


 ヴロミコは牢屋を抜け出る際に自身の腕を触媒にしたこと以外は、見た目は無事だ。

 精神に関しても目立った変化は無いように思える。アアイアとの追いかけっこが余程楽しかったのか、興奮が未だ冷め止まらず通路をあちらこちらと走り回っている。鬱陶しいことこの上ないのである。


 嬉しそうな彼女に対して、私はとても不安で一杯だった。

 あともう少しのところで、私の大事な思い出を1つ残らず奪い去られて、ヒューゴ君と2度と会えなくなるかもしれなかったのだから、それはもう冷や冷やしたよ。

 この場に残ったのが私1人だけだったら、不安で泣いてしまったかもしれない。それでも泣かないでいられるのは、他人の目があって格好をつけざるを得ない場だからだね。




 身の回りの確認も程々に終えて、アアイアが待つ場所へ向かおうと思ったけれど、今の状態では魔法を詠唱することもままならない。不測の事態に備えて魂の補充が必要だった。

 ヴロミコになけなしの魂を渡して、牢屋から魂を引きずり出してもらうようお願いして、幾らかの魂を吸収する。

 その魂を使って失った右手に回復魔法を詠唱してみたけれど、残念ながら元に戻ることは無かった。

 他人の魂で私の魂へ補填はできないみたい。


 魂は幾らあっても良い。

 ヴロミコには引き続き牢屋の鉄格子を引っぺがして、その中にいる魂を私の元へ持ってきてもらうようにお願いする。


 その間に私とフェルメアの夫は元来た道を戻って、部屋の中央へ向かう扉まで向かう。

 アアイアが待つと言っていた場所は、たくさんの扉があった巨大な円形の部屋のことだろう。きっとそこに行けばヒューゴ君に会うための事態が好転する何かがあると思う。そう信じている。

 フェルメアの夫は動揺しつつも、何とか残っている戦いの記憶のみで前に進んでくれている。彼がそれなりの強さを持ち合わせていることは先程の戦いで分かったけれど、今や自分が何のために戦っているのか思い出せない状態の彼に、あまり期待はできないだろうね。

 彼には悪いけれど、この先に起きるかもしれない戦いに備えて盾になってもらおう。




 アアイアの玉座があった部屋の扉に辿り着いてから、早速扉を開け放つ。

 いずれヴロミコが魂を私の近くまで補給してくれるだろうから、なるべく扉から離れないようにしておく。


 フェルメアの夫が滅茶苦茶に破壊したはずの部屋は、綺麗さっぱり元の状態に戻っていた。

 壁に空いていた穴も、中央の円状の階段も1つの欠けも無く、初めてこの部屋に来たのかと勘違いしてしまいそうになる。

 円状の階段の頂上には、場違いなロッキングチェアと、それに座っていると言って良いのか分からない武器の塊が鎮座している。

 数えるのをすぐに諦めさせてくれる程の武器が、それに向かって突き刺さり貫通し反対側に刃を突き出させている。アアイアだ。


 そしてアアイアから少し下の段に、腰が直角に折り曲がった青白い顔をした老人がいた。その老人は顔以外の一切を黒い衣類で隠していて、顔だけがそこに浮き上がっているように見えてしまいとても不気味だ。

 見覚えはある。

 だから、多分アレがきっとヒューゴ君を知る地獄の王様の1人だろう。


 そしてその円状の階段の1番下に、じっと立ち此方を見つめる者が2人いた。


 1人は人間の女だ。いや、良く見ると長い金髪に混じって耳のような突起が2つ生えているから、多分半獣人(ハーフビースト)だろうね。顔は、大人の女性だとか、気品溢れる美人などのような印象を与えさせるけれど、耳のせいで可愛く見えてしまう。

 それでも女は鋭い目つきで此方を見ているので、強烈な威圧感を感じさせる。怖い怖い。


 対してもう1人は人間の男なのだけれど、半獣人と比べて何とも平和ボケしてそうな平穏な顔だった。

 黒髪の若い彼は、黒剣を片手に持ち、もう片手に黒盾を持っている。そこそこ筋肉があるみたいだけれど、それでも剣と盾を持ってそれらを振るうには頼りないように見える。


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