6時間前
「広き虚の無暗へ歩を……」
ジェトルは壁に書かれている古代文字を読み上げているようだが未だに手がかりは見つかっていないようだ。
「ヒューゴさん! アンフィスバエナは猛毒の液体を吐きます! 肌に触れれば溶解して傷口から毒が入り込むので注意してください!」
俺のすぐ後ろで槍を持って待機している魔物研究博士のイゼアがアドバイスをしてくれたが、双頭の蛇は数が多すぎて1つ1つに対応などできない。
「弱点はどこだ!?」
「アンフィスバエナは溶解に対する耐性はありますが毒自体に耐性はありません! どこかに少しでも傷を付けて毒を擦り付ければ死にます!」
無茶苦茶な。
溶解する毒なのにどうやって擦り付けろと言うんだ。
双頭の蛇アンフィスバエナがいくつも黒鎧に巻き付き締め付け始めると鎧が悲鳴を上げ始める。
これはまずいと蛇の頭を掴んで、壁に無理矢理叩きつけると牙が顎を貫通する。
あ、傷を付けるのは意外と簡単だった。
「ヴィルオーフ! おい、ヴィルオーフ!」
「ヒューゴさん! ヴィルオーフさんが倒れました!」
後ろでディギタルが叫んだ後、イゼアが状況を知らせてくれた。
ヴィルオーフは右腕を失い出血がひどかった。すぐに自身で回復魔法を使い傷口を塞いだが、それでも意識を失ってしまったようだ。
この状況を簡単に打開する方法がまだあるにはある。
だが、その方法は俺が実行するには余りに躊躇いが大きい。
なぜ、こんなことになってしまったんだ。
魔法トラップが発動するまでの記憶を遡る。
◆◆◆
「よし、ここで一旦荷物を下ろそう」
リーダーのディギタルは皆に指示をかけた。
ここは遺跡の中心部だ。
入り口からここまでは全くトラブルなく進むことができた。魔法トラップはいくつもあったが、どの位置にトラップがあるのか事細かに地図に書いてあるので誰も怪我することはなかった。
「それで、ここから先はどうするのさ。魔物の悲鳴が無数に聞こえるという話なら、奥は魔物だらけということだろう?」
シェンナはこれからの作戦をディギタルに尋ねる。
「そうだな。無策でわざわざ殺されに行く訳にもいきませんな」
イゼアが咳き込みながらシェンナに同調する。
辺りは一面真っ暗で、各自が持ち合わせるランタンだけが頼りの明かりだ。
「そのために黄衣の魔女殿をお呼びしたのだ」
ディギタルはリリベルに目線を配る。
それなりの期待を持った声だ。
「ふむ。私が露払いをすれば良いのだね」
リリベルが1人で先に進もうとするもヴィルオーフが手を出して遮る。
「待て。魔女を1人で行かせるのか? いくら高名な魔女とはいえ危険だ」
「それに……いや、何でもない」
大方何を言おうとしていたかは予想がつく。魔女の彼女を信用できないのだろう。裏切るかもしれないし、宝を独り占めするかもしれない。
ディギタルもそれを察してか、ヴィルオーフにそれ以上の追及はせずに話の続きを始める。
「もちろん魔女殿1人に行かせる訳にはいかない。ダナとシェンナはここで待機してくれ。必要な荷物以外はここに残していく」
「待て待て! それで誰かが魔法トラップにかかったらまた同じことになるだろう!」
ジェトルが異を唱える。
彼は俺と同じく戦闘が得意でないから、魔物に襲われた場合対処できないだろう。ジェトルは安全でない状態で奥へ進みたくないのだろう。
「魔法トラップが発動した場合、解除方法のヒントを探るために古代文字の解読を頼みたいのだ。護衛は俺が担当するから付いて来てくれないか」
ジェトルはリーダーの真摯な願いを無下に断ることもできず渋々了承することになった。
そうして6人の調査隊が最奥へ進むことになった。




