幸せを喰む者より、憎悪を込めて2
魂を吸収していく中で反撃する者は1人もいなかった。皆、疲れているみたいで私の行動に対して反応する人がいないのだ。
ほとんどは記憶を失い続けた魂の成れの果てで、生き物の姿をした中身の無い抜け殻のようだった。
その中でたまにお礼を言う者たちがいた。
手を合わせて私を拝み、涙を流し、柔らかな顔でその形を失っていく。
それはゴブリンだったり、エルフだったり、見たことのない動物だったり様々だった。
誰も彼もが罪を洗い流すための自傷行為の果てに赦しと助けを求めていた。
別に私は神様ではないのだけれどね。勝手に救われてもらっても困るよ。
ヒューゴ君か王様の探し人以外の者を1つ残らず、私の中に入れ続けて、通路から悲鳴が無くなった頃に、通路の終わりが見えた。
行き止まりには扉がある。
こういう監獄には看守がつきものだ。
先程見た黒い変質者が看守だとするなら、彼らには見つかりたくないので、ゆっくりと扉を開けてその先の様子を確認する。
そこは大きな円形建物の中のようだった。
声を張り上げれば、よく響きそうな天井の高さで、その天井や壁にはおどろおどろしい細工が施されている。ここに貨幣の文化が取り込まれているのかは分からないけれど、すごくお金がかかっていそうな見た目だね。
誰もいないようなので意を決して部屋に入る。
思った以上に大きな部屋だ。
中央は円状の階段があって、頂上にはこの場の雰囲気にはひどく似合わない質素なロッキングチェアがある。
私に続いて王様と泥まみれの子供が部屋に入って来た。
「扉だらけかな」
子供が呟いた言葉の通り、私たちが出てきた扉と同じ形をした扉が数えきれない程、この部屋を囲むように取り付けられていた。
これらの扉全てに牢屋の群れがあるとすると、調べるのに骨が折れそうだよ。
私のこれまでの魔女生だけでも、たくさんの生き物の死を見てきたのだから、牢屋の数が膨大になるのも無理はないね。
効率の悪い魂の浄化方法だと思うけれど、そのおかげでヒューゴ君がまだいる可能性を濃くしてくれているので、感謝しないといけない。
「脱獄とは何千年振りだろうなあ。珍しいなあ」
誰もいないと思っていたけれど、勘違いだったようた。
声のする方向を見てみると、確かに誰も座っていなかったはずのロッキングチェアにいつの間にか物体が座っていた。椅子をきいきいと揺らして寛いでいる。
物体はこれまた黒いローブに身を包んでいて身体のシルエットを判別し辛い。
それよりも最も特筆すべきことは、それを物体と呼称せざるを得ない異様な見た目だよ。
身体中に槍や剣や矢が突き刺さっている。刺さりすぎていて、何かの生き物というよりかは武器の塊としか判別できない。槍や剣などは貫通していて刃がローブから飛び出している。
金属の光りで照らされた刃が無数に外側に伸びたアレに抱きつかれたら、私の身体が穴だらけになりそう。
顔っぽい箇所からは顎が外れたような大きく開いた口があり、その口からまた刃が飛び出ている。
口から出た刃だけは、青白く光っていて目立つ。
「せっかくだから自己紹介しようかなあ」
「吾は地獄の王、9層の王、アアイア」
「退屈していたんだ。嬉しいなあ」




