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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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監獄より、願いを込めて4

 困った。

 まさか牢屋に閉じ込められるとは思わなかった。


 何とかこの部屋から出ることはできないかと、背負っていた鞄を一旦床に置いて、改めて牢屋の外側の様子を窺う。

 丁度私の真向かいにいる牢屋には、人らしきものが床に座っているけれど動く様子が一切ない。生きているのかな。


 通路の幅はそれなりにあるため、真向かいからすぐ右隣の牢屋の様子も見ることができた。

 無数に響く叫び声の1つがその牢屋から聞こえてきたので、興味を引いた。


 その牢屋には女がいて、自身の股を開き、赤熱する火かき棒を何度も入れては抜いてを繰り返していた。火かき棒を入れられたことは私自身何度も体験してきたので痛みは簡単に想像できる。

 だから、彼女が獣のような雄叫びを上げているのも理解できた。

 問題はなぜ自ら地獄のような痛みのある行為を行っているのか。何かの儀式なのだろうかね。




 今度は真向かいから左隣の牢屋を見やると、胸の辺りから血で染め上がった服を着ている男が立ち尽くしていた。

 彼は手にナイフらしきものを持っており、深呼吸をしたかと思うとナイフを思い切り胸に突き立てた。

 当然、痛くて呻くけれど、彼は何としてもナイフを胸の奥に到達させたいようで、必死に押し込もうとしている。

 けれどナイフは余程なまくらなのか、全く突き刺ささる様子が無い。


 だから、ナイフを抜いては刺して抜いては刺して、あるいはナイフをぐりぐりと回転させながら押し込んで胸奥に突き入れようとしている。

 その過程でやっぱり彼は絶叫する。

 あの行為についても過去に体験したことのある行為なので、彼の痛みはすごく分かる。

 しかし、なぜその痛みを受けながら、自分の胸にナイフを刺し続けているのかは分からない。


 地獄の9層には変な人がたくさんいるみたいだね。




 牢屋の様子がはっきりと確認できそうなのは、その3つぐらいで、それより奥は暗くて良く分からない。

 この牢屋から出られそうな情報は全く得られなかった。困ったね。






 しばらく壁や天井を調べたり、赤熱した火かき棒で壁を掘ってみたりしたけれど、良い結果は得られなかった。

 強固な作りになっていて、手で押したり棒で叩きつけたぐらいでは破壊できない。掘ってみても破片の1欠片すら出てこない。


 火かき棒を小さな机の上に戻して、僅かな空間に腰をおろして他にできそうなことはないかと思案してみる。

 でも、外の叫びが酷くて全く集中できない。近所迷惑だよ。

 床はとても冷たくて、マントと服越しでもお尻が冷えてしまうのが分かる。これも思案を妨げているね。


 鞄を尻の下に敷けばマシになると思って手をかけた時にふと思い付く。

 そういえば魔力石はここで使えるのだろうか。魔法が使えたらこの壁を吹き飛ばせるかもしれない。

 早速使って試してみよう。


 鞄の開けて中身を探そうとした時だった。

 突然鉄格子の外から声をかけられた。


「リリベル・アスコルトか」


 ぼろぼろの黒いローブとフードを被った何者かが通路に立っていた。顔は良く見えない。フードを被っていることを加味しても暗すぎるよ。

 そして「リリベルアスコルトカ」は何かの呪文かな。それとも自己紹介しているのかな。


「魂の清算をしろ」


 具体的に何をすればいいのか分からないので、実際にやるかどうかは置いて何をすればいいのか尋ねてみると、すんなり返事は返ってきた。


「姦淫の罪により燃え盛る聖棒でお前の腐った売女の印を清めろ。殺生の罪により聖なる刃でお前の命を清めろ。神の力を無断で使用した罪により結ぶ(はさみ)でお前の身を100に切り分けて謝罪しろ。魂の清算が終わればリリベル・アスコルトは終わり次なる魂へと生まれ変わる」

「えーっと……それぞれ何回やればいいのかな?」


 意味不明な指示に動揺して少しずれた質問をしてしまった気がする。

 しかし、変質者は次の質問には返事をせず、纏ったローブを横に揺らして通路の奥へ去って行ってしまった。

 呼びかけてもまるっきり無視するのだから、随分と親切心に欠ける人だと思うよ。


「リリベル……?」


 変質者が去って、再び対面の牢屋が見えるようになったと思ったら、床に座っていた人らしきものが急に立ち上がった。立ち上がって鉄格子を掴んで私の方をじっと見つめている。


 ちょっと怖かったけれど、私はすごい魔女なので泣いたりはしない。


「黄衣の魔女!」


 先程の変質者や目の前の誰かさんが言うリリベルとは恐らく私のことなのだろうね。

 ただ、リリベルと呼ばれても私は呼ばれた実感が湧かない。人違いではないかと思ってしまう。


「師匠! ここは何も無くて暇なのかな。泥遊びしようよー!」


 私を師匠と呼ぶ目の前の誰かさんが、鉄格子に顔をめり込ませたところでやっと顔を視認することができた。

 亜麻色の髪で三つ編みのおさげを揺らす彼女は、明らかに幼い顔立ちをしている。


 どこかで会ったような気がする。


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