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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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地獄の門より、疑問を込めて4

 一夜明けて、ヒューゴ君の前で座って魔法に集中しているリリフラメルと交代し、私が彼の生命機能を操る。

 リリフラメルは取り付けた手足に慣れず、転びながらもどうにか自分のベッドに辿り着いて眠りにつく。


 ヒューゴ君と魔力を受け渡す契約をしている私は、彼女と違って彼と距離を離しても問題無く、彼の身体を世話することができる。

 それでもお風呂や歯磨き、食事などについては、私が近くにいるうちは、私自身でやった方が楽だけれどね。


 彼の衣服を脱がし、濡れた布で身体を拭いてあげる。

 その後は新しい服に着替えさせて、朝の食事を作り彼に食べさせる。

 用足しには臓物を動かす必要があって、慎重に動かしてあげないと少し大変なのだが、7日目ともなれば慣れてきた。


 赤子など育てことはないが、赤子を世話するときはこのような感じなのだろうか。

 見た目はただのヒューゴ君なので、本来は自身でできたはずの全ての身の回りのことを、私に全て委ねられていると思うと、ちょっとだけ興奮する。ちょっとだけね。


 日課として彼の頬への口づけを忘れず行ってから、港の様子を見に行く。

 このぼろぼろになっている大事なマントも早く彼に直して欲しい。サルザス国で牢屋番として働いていた頃の彼に、良く破れたところを縫って直してもらっていたことを思い出して懐かしんでしまう。

 もちろん私でも直せるけれど、他の誰でもなく彼に直して欲しい。




 港には珍しく船が何隻か停泊していて、ヒューゴ君より頼りがいのありそうな筋肉を持った男たちが、せっせと荷物を運んでいた。

 私の可愛さに見惚れたのか、黄色いマントが目立つのか分からないけれど、行き交う皆が私をちらと見てくる。

 その人混みの中から、一生懸命にお腹を揺らして手を振って近付いて来るおじさんがいた。


「魔女殿ー! しばらく振りでございますな! お身体変わりないでしょうか」

「変わりないよ」


 ロベリアさんだった。彼は商業国家フィズレの学校の偉い先生らしい。

 ヒューゴ君の知恵のおかげで、彼から幾つもの魔法に関する仕事を斡旋してもらっているのだ。

 魔力石を売っていればお金に困ることは無いので、わざわざ仕事を斡旋してもらう必要はないのだけれど、ヒューゴ君の「魔女のイメージアップ作戦」のために、人間たちにあえて肩入れしている。


 おかげで私を黄衣の魔女と知って襲ってくる者も少なくなった。フィズレでは人前で「魔女」と言われても、騒ぎになることはない。

 それまでは、魔女は悪い奴だから何をしても許されると魔女を使って一儲けしようとする連中に襲われて、連れ去られることが多々あった。


 ヒューゴ君はすごいのだよ。


「今は旦那様と一緒ではないのでしょうか」


 列車に乗せてもらった時には、勝手に彼が私たちを夫婦に仕立てあげたのに、なぜか今も夫婦扱いされている。特に彼に突っ込みは入れずにそのままにさせておくけれどね。


「彼は()()()なのだよ。今もまだ寝ているよ」

「お熱いですな、はっはっはっ」


 はっはっはっ。


「しかし、酷い有様ですな。聞くところによると魔女が攻めて来たとか?」


 声をひそめて話す彼に無言で肯定する。

 そして、さすが商業国家フィズレの人間だよ。情報が早いね。


「さすが黄衣の魔女殿ですな。このようなことをする魔女を退治してしまうとは」

「残念ながら、今回は私はほとんど何もしていないのだよ。ほとんど私の騎士のおかげ」

「おお! 魔女殿の出る幕が無かったという訳ですな」


 本当は結構危なかったのだけれどね。

 話題を変えて次にお金の話をする。ここまでの人や物資を動かすためにかかった費用の話である。


「支払いについてなのだけれど、お金は今家にあるんだよ。だから支払いがすぐにはできないんだ」

「いえいえ、不要でございます。魔女殿には大変世話になっておりますからな」

「え。いや対価は受け取って欲しいのだけれど」

「実を言いますと、フィズレとエストロワを繋ぐ列車のおかけで継続的に私に収益がありまして……。あのような事件があった後ですが、利便性が(まさ)って皆利用してくれるのです。今では私の人生を10度繰り返しても余裕のある生活をできるのです。そのお礼を魔女殿にいたしたいのです」


 いくら莫大な財産を築いたと言っても、この先何が起きるか分からないでしょうに。

 フィズレは金勘定に厳しそうな商人たちの集まりで、彼も同じなのかと思っていたけれど、案外そこまで打算的ではない人なのかもしれないね。


 それならと私はロベリアさんの提案に乗り、無料で物資を受け取ることにしたのだ。

 正直心の内は怯えているよ。無料なんて言葉程怖いものはないし、しかも彼は商人の国の人間だからね。


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