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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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騎士を愛する者より、怒りを込めて3

 動けないヒューゴ君をノイ・ツ・タットという国から移動する訳にもいかず、しばらくここで滞在せざるを得ないのだが、この国の街は惨憺(さんたん)たる有様だ。どうにも滞在し辛いよ。


 そう大きくない島の半分が焦土と化し、道行く建物や道路は真っ黒な何かへと変貌している。

 リリフラメルが通った間近の人工物は跡形も無く、ほんの少し離れた所でも辛うじて焼け残っているぐらいだ。焼け残っているというのは、元の形を残している部分があるという意味ではなく、それが何の物体であるか良く見れば判別できるけれど、結局は消し炭でしかないという意味だ。

 だから、()()()()()()()()()にいた人間たちは、炎から逃れようとするポーズを取りながら、道端で黒い置き物のようになっている。


 その死体らしきものを騎士たちが墓に埋めるべく、袋に包もうとしている姿がちらほら見える。


 そんな光景を見ながら歩いていると、クレオツァラが溶けた大通りの(みち)を歩き辛そうにしながら、私にこの国の今の状況を教えてくれた。


「モドレオ様が持っていた賢者の石が無い今、この街を元の風景に戻すのは今日明日での話ではないようだ」

「私の騎士に対する当てつけかな?」

「し、失礼した! 決してそういう意味で言った訳では無い……」

「分かっているよ」


 どいつもこいつもヒューゴ君を死んだことにして、彼の主人である私を悲劇のヒロインかの如く丁重に扱ってくる。

 彼の主人である黄衣の魔女(わたし)が、彼はまだ死んでいないと言っているのだから、決めつけないで欲しい。


 私が道を歩いていると、騎士や国民が私に深々と挨拶をしてくる。

 敬虔なマルム教徒のくせに、魔女に挨拶しなければならない教義でもあるのかな。


 彼らは口々に、騎士のことは残念だったとか、騎士のご冥福を祈るだとか、騎士のおかげで今の私たちがあるだとか、私の(かん)に触ることばかり言うのだ。

 国民が勝手に彼を、燐衣(りんえ)の魔女の災禍から国を救った英雄にして、それを思い出にして私に(なす)り付けようとするけれどやめて欲しい。腹が立つ。


「黄衣の魔女殿とヒューゴ殿には幾つもの借りができた。国民が全滅していた可能性もあったが、彼のおかげでそれはなくなった。アルマイオとモドレオ様の命が今あるのも彼のおかげだ。それにこの国の防御としてエリスロース殿の力を貸していただけるよう進言して下さった魔女殿にも感謝する」

「気にしないでくれたまえ」


 エリスロースには、また面倒ごとをお願いしたのだ。

 モドレオの賢者の石が無くなり、島を守っていた防御壁が消滅している今、この国は敵からの攻撃に無防備だ。

 だからこの国の防衛機能に算段がつくまで、彼女にお願いした訳だ。「また面倒ごとか」とぶつくさと文句を言ってきたが、最終的に彼女に私の魔力を分けてあげることで納得してもらった。


 今、私が魔力を分けている人はヒューゴ君、エリスロース、そしてリリフラメルの3人だ。

 特にリリフラメルはこれから取り付けてもらう義手や義足に魔力が必要なのだ。

 でも彼女は怒らないと魔力を増幅できない。怒らない彼女の魔力量などそこら辺の一般人と変わらない。

 少なくとも、魔力義手や魔力義足を問題なく使えるように、彼女には我を忘れない程度の怒りまで感情を調節できるよう訓練しなければならない。

 そのため、しばらくの代替手段として私の魔力を注ぎ続けることになったのだ。


 寝坊助の世話をしたり、機嫌を取るために魔力(おやつ)をあげたり、(しつけ)をしたりと、まるで3人の子供を世話する主婦になったみたいだよ。



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