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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第7章 地獄より、愛を込めて
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騎士を愛する者より、怒りを込めて2

 セシルは大きな紙袋を両手いっぱいに抱えていて、袋からは手や足が飛び出していた。物騒な見た目の彼女に、その手足は何なのか尋ねる。


「何って、貴方が私に言ったんじゃない……。蒼衣(そうえ)の魔女から義手と義足を作るように依頼して欲しいって……」


 そうだったね。

 リリフラメルのために蒼衣の魔女に魔道具の開発を依頼するよう、セシルにお願いしたのだった。

 彼女は私の可愛げ満点のお願いに殺されやすい魔女なので、あっさり願いを聞き届けると張り切ってやってくれた。ちょろい女だぜ。


 リリフラメルの髪を切っている最中なので、終わるまでセシルに待つようお願いする。

 セシルは乱暴にリリフラメルのベッドの上に、袋に入っていた手足を放り投げ、ヒューゴ君の方へ近付いて行った。


「リリベル……。あんまり言いたくないけれど、彼は死んでいるのよ……?」


 彼女の言う通り多分、ヒューゴ君は死んでいるのだろうね。


 いや、死んでない。

 治癒魔法で傷1つないようにした彼の肉体は綺麗だ。死んでいるようには見えないでしょう。


 私は何度も死んだことはあるけれど、()()()()のことを経験したことは1度もない。いつも死が確定したその瞬間に生き返ってしまうからだ。

 もしかしたら、私みたいに傷が治る直前の状態に戻せば、ヒューゴ君は不意に目覚めるのではないかと思って、全く傷が無くなるように彼を癒やした。


 もしかしたら今日は起きなくても、明日は起きるかもしれないね。


「このままでは彼が腐ってしまうわよ……」

「腐らないよ。私が毎日世話しているからね」


 何せ今の私は超すごい魔女なのだ。

 ヒューゴ君のためを思うと、私の頭の中の閃きが留まるところを知らず、新しい魔法の構想がいくつも思いついてしまう。




 未だ彼に流れ続ける私の魔力を利用して、私は彼の肉体の全てを稼働させ続けている。

 元々は私が私自身にかけていた魔法の応用で、難しい話ではない。


 彼と初めて出会った牢屋にいた頃、私はたくさん虐められていた。大抵は私の身体で愉しむだけだったけれど、たまに違う時もある。

 その日あったイライラを私にぶつけるためか、単なる好奇心なのかは分からないけれど、どんなことをすれば私がより叫ぶのか試す人がいた。

 釘を何本も刺す人もいたし、溶けた熱を飲ませる人なんかもいて、それはもう散々な目にあったよ。


 反撃しても良かったけれど、反撃したら彼らの1つしかない命を落としてしまうかもしれない。そうなったら可哀想だと思って、結局そうはしなかったけれどね。


 彼らが楽しいなら、それはそれで良いかなと思って彼らの好きにさせていたけれど、ただ、ヒューゴ君の前ではみっともなく叫んだりするのは格好悪いと思う時があった。

 彼の気持ち悪い優しさに何度か触れて、ある時から彼を私の傍に置いてみたいと思い始めた時から、まずは格好を付ける所から始めないといけないと思ったことが要因だと思う。


 そんな時に開発した画期的な魔法!

 それが『ふふん』という魔法なのだ。

 私の身体を強制的に私が操る魔法。痛みによる反射で身体が強張ろうとも、痛みによって無意識に声を出そうとも、私の意志で肉体の動きを無理矢理変えて、無様な姿を彼に晒さないようにする。

 しかも、口が塞がれていても鼻で笑えば詠唱できる!

 これはすごい魔法で、我ながらすごいと思う!

 難点は、この魔法の特性上、不意の痛みに身体が反応してしまわないように、使用している間は常に意識的に身体を操り続けていないといけないことかな。

 だから、戦いの場等以外ではただ疲れるだけなので、周りにいる人が彼しかいない場合は使ったりしない。


 痛みを全く感じない身体にしてしまう手もあったけれど、死なないまま、気付かないうちに血だらけで身体のあちこちが変な方向に曲がったままになる可能性があったので、その魔法に関しては開発を見送った。


 ヒューゴ君は、私が攻撃を受けても何も感じていないような素振りを見て、私が痛みの感覚を消しているのではないかと勘違いしているようだけれど、実際は違う。

 攻撃を受ければ滅茶苦茶痛い。()()()痛いのだ。

 多分、直接的な攻撃を受けて死ぬ回数より、痛みのショックで死んでいる回数の方が圧倒的に多いと思う。


 だから彼にこの魔法の真実は教えていない。

 教えてしまったら、彼は今まで自分が見てきた、私に降りかかっていたあらゆる攻撃を思い出して、「騎士としてリリベルを守ることが全然できていなかった」とか何とか言って凹んでしまうでしょうね。




 この魔法を応用して彼の身体を意識的に動かしている。

 ヒューゴ君の心臓の鼓動も血の流れも咀嚼も排泄も、今は私の意のままだ。

 (ちまた)では死霊魔術師(ネクロマンサー)とかいう奴がいるらしく、セシルは私をそれらと同じだと言うけれど、彼はまだ死んでいないのだから一緒にしないで欲しい。


 ここまでしているのに、彼は目覚めるのを勿体ぶって中々起きないので、それも私の気分が悪いことに繋がっているかもしれない。






 リリフラメルの生い茂っていた青髪を切り終わったので、手足をくっつけてもらおうと、セシルと交代しようとしたその時、更にこの部屋に客がやって来た。


「黄衣の魔女殿。アルマイオが貴方を呼んでいるのだが、来ていただけますかな」


 確かクレオツァラとかいった名前だったか。

 背筋の伸びた老い気味の彼が、申し訳なさそうに私を呼ぶ。申し訳ないと思うならそのまま回れ右して帰って欲しいところだけれど、ノイ・ツ・タットを救った英雄である騎士の主として行かない訳にはいかない。


 すっかり日課になってしまった目を覚まさぬヒューゴ君への頬に口づけをしてから、ぼろぼろのマントを羽織って聖堂へ向かう。


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