終点3
モドレオは俺の目と鼻の先まで近付いて、リリベルの血が付いた杭を俺の目の前でちらつかせる。
見えない壁に阻まれているかの如く、俺の身体はどうしようもなく動かせない。その見えない壁を何ともせずにモドレオは杭を俺の喉に添わせる。
顔を動かせず、視界の端にモドレオの司教帽しか映らなかったが、それを越えて水晶の根元にいるリリベルがゆっくりと立ち上がって、此方にゆっくりと近付いて来る。
黒い老人はモドレオやリリベルなどの一切それらの動きを関知しない。暇そうにただ眺めているだけだった。
「だから僕はねー。黄色いお姉ちゃんをこのお城に呼ぶために色々したんだよお」
モドレオが変な気を起こして杭を突き立てたなら、確実に俺は死ぬだろう。
声を出すこともできない現状、回復魔法を詠唱することもできなくなる。しれっと危険な状況に置かれていることに気付いて焦る。
「お姉ちゃんがサルザスで捕虜になってるって噂で聞いたから、オーフラの人たちをあのお城にけしかけたんだよお」
左下から聞こえてくる陽気な声に衝撃を受けて唖然とする。
表情にも声にも出せないが、今確かに俺は唖然としている。
「でも、鎧のお兄ちゃんがお姉ちゃんを連れて逃げちゃったから、すぐに僕のお城に招待できなかったんだあ」
オーフラとの国境付近にあったサルザスの城が攻撃を受けたのは、こいつのせいだったのか?
城が陥落して落ち逃れる時に、草原で見かけた城を取り囲んでいた兵士は、城が目当てなのではなくリリベルが目当てだったのか。
「その後に、お姉ちゃんがとっても強い魔女だっていうことが分かったんだあ。だから、お姉ちゃんが全く勝てないような、お姉ちゃん以外の全員が死ぬぐらいの強い敵をいーっぱい用意したんだあ」
「夢を見せてくれる人がいたから、その人を使って、お姉ちゃんに夢を見せている間に連れて行こうかと思ったんだけれど、お姉ちゃんってばすぐに起きちゃったんだよねえ」
「フィズレの商人と仲が良くて、お姉ちゃんが魔法に関する困りごとを解決する依頼を受けているっていう噂を聞いた後はねえ。その商人さんに依頼したんだー」
「フィズレとエストロワを結ぶ列車を作って欲しいって。それでねー、ツエグッタおばさんと知り合いにさせて、ついでに殺人事件が起きるようにいっぱい作戦を立てたんだあ」
「ずっと西にあるオークの谷の僕の秘密基地も見てくれたー? 僕があそこに行くように招待したんだよお。いっぱい殺せるようにいっぱいエルフとか人間とか産ませるための、僕のとっておきの秘密基地なんだよお。きっとお姉ちゃんは楽しんでくれると思って呼んだんだー」
「ツエグッタおばさんに言われてポートラスにも行ったでしょお? あそこの黒いお爺ちゃんに、王様と王女様を地獄から連れて来てもらってお姉ちゃんたちに会わせたんだよー。死んだ人がお化けになるとどうなるのか見たでしょお? 楽しかったあ?」
「後はねえ。お姉ちゃんたちが燐衣の魔女って呼んでる人はねえ。僕が作ったんだあ」
「僕が賢者の石で悪い魔女のお姉ちゃんを操って、いっぱい殺したんだよお。人を操って別の人を殺したらどんな気分になるのか、知りたくてやったんだけれど、とーっても楽しかった!」
「悪い魔女のお姉ちゃんをとっても強い魔女だって思わせれば、きっと黄色いお姉ちゃんと戦ってくれるって思ったんだあ」
「それでね。とっても強い魔女が、僕の国を襲うから助けてって黄色いお姉ちゃんにお願いしたんだよお」




