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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
135/723

転換

 胴体へ打ち込んだ槌の一撃が決定打になったようだ。

 アルマイオの赤い鎧は今までの酷使の影響によって、鎧という機能を崩壊し、形が崩れてい生身を晒す。


 アルマイオが今まで決して声には出さなかった呻きが、初めて漏れ出た。

 横に倒れた彼の兜を無理矢理剥がし、様子を確認する。

 赤髪の彼は流石に息も()()えになっていて、ほっと一安心する。酒場で会った時の彼と同じで、ちゃんと人間で良かった。


 聖堂の出入り口付近からよたよたと足元の残骸に(つまず)き声を上げながらも此方に近付いて来た。


「助かったよ。セシルのおかげだ」

「そこの彼はまだ生きているようだけれど、殺さないの……?」

「殺さない。だからセシルがアルマイオを見張っていてくれないか」


「このお人好しは……」と呆れたように眉を下げて溜め息を吐く彼女だったが、拒否はしなかった。

 アルマイオの服を引き裂き両腕を縛る。魔法を詠唱させないために残った布を捩って彼に噛ませようとするが、その前に彼に質問を1つする。


「貴方の弟を殺すつもりは一切無い。だからここで大人しくしていてくれないか」


 荒い呼吸の中で彼は冷ややかに笑う。


「君は……勘違いをしている」

「何を言っているのだ」


 観念してくれたのか彼は反撃する素振りはみせなかった。

 それでも一体俺が何の勘違いをしていると言うのだろうか。その疑問を確かめたくて、彼の口に布を噛ませるのを躊躇って返事を待つ。


「実際にモドレオ様と会ってみれば分かるさ……。俺は弟のことを良く知っている……」


 彼はそう言い残すと、力無く身体を自由にする。

 死んでしまったのかと思って焦って、鎧を解いて口に手を当てるが、呼吸はしているので安心した。気絶しただけのようだ。


「何が言いたいのか、私にはさっぱり分からないわ……」


 念のためアルマイオに布を噛ませて、後を結び詠唱できないようにする。

 呼吸ができなくなってしまわないように、改めてセシルにアルマイオのことをよろしく頼む。


 次に俺はクレオツァラのもとへ急いで駆け寄るが、彼は意識がまだあった。

 彼を瓦礫から起こそうとするが、苦悶の表情を浮かべて俺の手を拒否してしまった。何があったのかと彼の身体を良く確認すると、木片が腹を突き刺していて大量に出血している。

 素手に血が付着して焦らずにはいられなかった。


 手当てのために急いで回復魔法を詠唱しようとするが、それすらも彼に拒否されてしまう。


「私のことは気にするな……。それよりも早く黄衣の魔女殿のもとへ……向かってくれ」


 そのようなことを言われても放っておける訳が無いだろう。

 彼の言葉など無視して手当てを急ごうとするが、すぐにセシルに後ろから肩を叩かれて声をかけられる。


「ヒューゴ、この人は私が手当てするわ……。貴方は早くリリベルの所に急いで……」

「しかし……」


 俺が言い淀んでいる間に、階段から何人かの騎士が下りて来て、俺たちの様子を見るや否や、剣を抜き怒声を放って来る。

 状況が更にややこしくなってきた。そう思っていた時だった。


「止めろ」


 ひどく破壊された聖堂の出入り口から大きく、くぐもったような声が飛び出して来て、目を向けると銅色の騎士と銀色の騎士、そして赤色のマントを羽織った若い男の姿がそこにあった。

 彼はエリスロースであった。


 声の主はヘズヴィルのもので、彼女は大きな鎧と背中に背負ったハンマーの重さを聖堂内に響かせながら近付いて来る。


「この場は私たちに任せろ。お前たちは外にいる魔女から国民を守れ」

「は、はっ!」


 セシルもクレオツァラも俺も口を開けて何が起きているのか分からず混乱していただろう。

 だが、すぐにエリスロースが歩み寄って来たことで、何となくの合点はいった。彼女は血の魔法によって2人を操っていると考えられる。


「ヘズヴィルとヴィヴァリエの2人には、私たちの共通の敵である燐衣の魔女に対抗するために、ひとまず休戦してもらっている」

「ただしモドレオ様を害さない、という条件でな」


 ヴィヴァリエが不本意そうに頭を手に当てて、そう付け加えた。


「そうだった。ああ、そうだった」


 エリスロースは、にこやかに笑う。

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