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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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正義4

 長椅子の瓦礫から人が1人立ち上がった。

 アルマイオから放たれる光で照らされた彼は、クレオツァラであった。

 彼は血だらけで息を切らしながら、黒剣を手に持ち続け戦いの意志を捨てずにいた。


「お主は変わってしまったのだと私は思っていたが、変わっていなかったのだな」

「クレオツァラさん!」


 さすがに声の反響が起こりやすい聖堂内部でも、2人の距離が近ければアルマイオもさすがに位置を悟るだろう。


 リリベルの魔力を借りて、防御の無い頭を守るために兜を具現化し、すぐ様マルム教のシンボルがある土台から身を繰り出し、アルマイオの気を逸らそうとする。


 間に合うか?




 間に合わないだろうな。




極光剣(きょっこうけん)!』


 アルマイオの詠唱と共に、振るわれた剣と槍から光が放たれる。

 その向き先はクレオツァラの方向であり、ここから走って彼を守ろうとしてもやはり確実に間に合わない。




 走って間に合わないのなら、魔法を放つしかない。

 だが、あの大きな光の魔力に対抗できる魔法を俺は知らない。


 俺は知識が足りないし、実力が足りない。




 知識が足りないなら、実力がないなら、他人の知識を借りて他人の力を借りるしかない。

 弱い俺が強い彼を相手にするには、使えるものは何でも使ってクレオツァラを助けるしかないのだ。それがどんなに無様な姿であろうと構わない。人の物で義理をしていると罵られようと構わない。


 彼を助けて、アルマイオを止めて、この国の民を助けて、そしてリリベルを助ける。できれば俺は死なないようにする。

 俺にはそれしか考えられない。


 アルマイオの見よう見真似で、黒剣の刀身にリリベルの魔力を留まらせる。

 見た目には黒い剣に黒いもやが纏わりついている。

 元々が魔力で具現化した剣なのだから、それに魔力を更に付加させることなど造作もない。


 魔法そのものの扱いは得意ではない。

 一端の魔法使いにすら負けるかもしれない程度の実力しかない俺だが、それでも1つだけ胸を張ってこれだけは他に負けないと言えることがある。


 それは黄衣の魔女リリベル・アスコルトの魔力を扱うことだ。

 彼女と共に行動してきた今となっては、彼女の魔力を扱うこと自体は呼吸をするより簡単なことだ。


 剣技も魔法も自賛できる程の自信もないが、彼女の魔力の扱い方なら誰にも負けない。

 だから、アルマイオの光の剣戟がクレオツァラに届くよりも前に、剣に大量の魔力を溜め込むことはできた。


 そして、剣を力の限りに縦に振って、俺の唯一持ち合わせている自信と共に魔力を解き放つ。

 剣を振る勢いに重ねて解き放った黒いもやの形をした魔力は、アルマイオの放つ光に一直線に向かって、魔力同士がぶつかり合う。

 見た目には光ともやがぶつかり合うという不思議な状況ではあるが、2つが魔力の塊であることを考えればそんなものなのだろう。


 黒いもやは素直に光を押し退ける。

 クレオツァラへ一直線に向かっていた光は、無理矢理に軌道を変えられ天井に向かって進路を変えて、爆発音と衝撃を引き起こす。


 だが、これで安心している場合ではない。アルマイオに二の剣を振らせてはいけない。

 止まってはいけない。

 全力で長椅子の破片を踏み鳴らし、歯を食いしばりながら剣を掲げながら彼に突進する。


 彼の赤い鎧の一部が壊れかけているとは言え、ほとんどの箇所は機能を保ったままだ。


 剣では駄目だ。


 剣でなければ槌だ。

 槌の衝撃力で彼の鎧を叩き割る。俺の思う正義と彼の思う正義を叩き合わせる。


『剣は――』


 さすがはクレオツァラが称賛する騎士なだけはある。

 聖堂内の反響にもう慣れたのか、アルマイオは俺の詠唱の声と足音で、大体の位置を把握して身体を向けた。

 それでも俺は彼に真っ向から立ち進む。ここで彼に恐れをなして引けば、再びクレオツァラが危険な状況になるだろう。


 もちろん恐怖心はあるし、すぐにでも彼の面前から逃げ出したいとは思っているが、それはできなかった。

 頭の中をよぎるリリベルが、俺を鼓舞しているからだ。今の俺に詠唱を止める気も、この歩みを止める気も無い。


『極光け――』

疾風剣(しっぷうけん)!』


 光を瞬かせたアルマイオに向かって、クレオツァラは神速の剣戟で彼の両腕に斬りつける。鎧で保護された腕に傷を負わせることはできないが、それでも腕の動きを鈍らせるには十分だった。

 動きが一瞬だけ止まったアルマイオに飛びつくようにして、俺は剣から槌に形を変えさせた魔力の塊を、全力で振り抜く。


『槌!!』


 激しい金属音が聖堂内に響き渡る。


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