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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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友達2

◆◆◆



「リリベル、美味しい?」


 セシルお姉ちゃんが料理の感想を聞いてきた。お姉ちゃんが作ってくれた料理はとっても美味しいって言ったら、お姉ちゃんはすごく嬉しそうにしていて、何だか私も嬉しくなっちゃった。


「お姉ちゃんって……。お前、ヒューゴのことを言えた義理ではないな……」

「五月蝿いよ、元魔女……」


 喧嘩してるのかな。

 喧嘩は駄目だよって言ったら、お姉ちゃんもお兄ちゃんもすぐに仲直りしてくれた。良かった。


「これはリリベルのための握手だからな」

「ふふふ、覚えてろよ」


 両目を怪我しているセシルお姉ちゃんは、最初は怖かったけれどとっても優しいから好き。

 エリスロースお兄ちゃんも、優しいから好き。


 でもお兄様が1番好き。早く帰ってこないかなあ。



◆◆◆



 酒の席にアルマイオも加えて、俺たちの騎士談議は大いに盛り上がった。

 アルマイオはいつ敵襲があるか分からないので酒は飲まずに、水と肉料理を腹に収めていた。


 アルマイオとクレオツァラの2人は、過去に大陸中央に位置する大国レムレットの騎士として共に国を守っていたのだそうだ。

 訓練で出会った2人は意気投合し、レムレットの騎士を辞めた後も長く付き合いがあった。


 2人の昔話と騎士としての生き様を語り合うことは、とても有意義で和やかな雰囲気であると思うだろう。

 だが、その実クレオツァラと俺は緊張感で一杯なのだ。

 クレオツァラが、さりげなくアルマイオの近況を聞くところから始まって、少しずつ会話の本質に辿り着こうとしている。俺はクレオツァラの語りに乗る形で手助けをする。

 アルマイオは素直にクレオツァラの質問に答えているが、彼の意図に気付きながらわざとそうしているのか、それとも友として嘘無く答えているだけなのかは、はっきしりない。


「こう敵襲が多いと大変ではないか? 睡眠はどうだ?」

「戦闘があってもすぐ終わるさ。それに、この国も一枚岩ではない。私がいなくとも守り切ることはできる」


 そこで、噂話の真偽を切り出せない彼に対して、アルマイオと初対面の俺がさも純粋な質問を持っていたかのような(てい)で、問いかけてみた。


「昼間の戦いは見ていました。アレだけ簡単に船を破壊したら、放っておいても皆殺しにできるのではないですか?」

「いや、駄目だ。敵は確実に息の根を止めなければならない」


 アルマイオは俺に顔を向けて、嫌な感情を表に出す素振りも見せず答えてくれた。

 クレオツァラは俺に目配せしてから、今度は彼が切り込み始めた。おそらくその目配せの意味は「話をしやすくしてくれてありがとう」の意だと思う。




「お主がそこまで命を奪うことに重きを置くとは。珍しいな」

「ルーツァ、彼らは悪だよ。1度悪に染まった者が善に戻ることは無い。モドレオ様と俺はそれを知っている」

「モドレオ様……君の弟かね?」


 アルマイオは顔を下げて、少し思いにふけるような、そしてどこか物憂げな表情を俺たちに見せた。


「そうだ、モドレオ様は俺の弟だ。まあ、色々あってな……。俺は弟にとっての正義の味方であり続けると決めたんだ」


 どうやらこれ以上、話を掘り下げられそうな雰囲気では無くなってしまった。

 クレオツァラも言葉を詰まらせてしまっている。

 アルマイオは俺とクレオツァラを交互に見渡して、肩を叩いて笑顔で「すまない、暗い雰囲気にしてしまったな!」と和やかな雰囲気に引き戻そうとしてくれた。




 それから少しばかりの時が経ってから、酒場の扉が勢い良く開かれ、乱暴に入り込んで来た2人の男が何かを探している素振りを見せた。

 2人は俺たちの席を見つけると、小走りでやって来てアルマイオに耳打ちをする。

 すると、アルマイオの顔つきはこれまでの柔らかな雰囲気から、鋭い目つきに似合う険しい顔になる。


「どうしたのかね?」

「ルーツァ、すまないが私はこれで失礼する」


 彼が騎士であることと、2人の男が急ぐような素振りを見せたことから、緊急事態であることは確かだろう。

 努めて小さな声でアルマイオに質問してみる。


「敵襲ですか?」

「そのようだ。クレオツァラ、久し振りに話ができて良かった。ヒューゴ、君とも話ができて良かったよ。2人は酒を楽しんでいてくれ」


 彼は懐から3枚の銀貨を置いて、急ぎ足で酒場を後にしてしまった。彼に続いて2人の男も静かにこの場を去って行く。




「クレオツァラさん。やっぱりアルマイオさんは何か訳がありそうでしたね」

「うむ。ただ、彼なりに何かを悩んだ結果、重大な決心をしたようにも見えた。やはり私が口出しをするべきでは無いのかもしれぬ」


 アルマイオと話をしてみて分かったが、彼は好んで敵を皆殺しにしている訳では無いようだった。

 そして、彼の弟であるモドレオも何か訳ありのような言い振りであった。2人に不幸なできごとがあって、敵襲に対して皆殺しという選択肢を仕方なくとっているのかもしれない。

 そうなると、俺もクレオツァラも彼らに対して、簡単に言葉を掛けられるような立場では無くなってしまう。


 結局、2人に何があったのか分からない限り、この話は進められそうにないようだ。


「ひとまずはこの酒を楽しみ、燐衣の魔と戦うことに集中しよう」


クレオツァラのカップに合わせる形で音を鳴らして、俺と彼は酒を再び飲み込む。


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