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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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赤色2

 城門の奥、城壁を隔てた内側で国民がどよめいてたまに悲鳴なども聞こえてくる。

 空は夜だというのに燐衣の魔女が放つ青い炎の光でひどく眩しく、そして暑い。


 クレオツァラが1歩前に出て、黒剣を構えずにアルマイオへ語りかける。


「アルマイオ、お前なら話が通じると思って言わせて欲しい」

「いや、ルーツァだからこそ俺がどういう人間か分かるはずだろう? 俺は何があっても主を、モドレオ様のために動く人間だということを」


 クレオツァラは乾笑いを1つして、それでも尚話を続ける。


「なぜヒューゴ殿と黄衣の魔女殿を無理矢理連れて行くのか分からないが、2人を苦しませないでやってくれないか。私の友でもあるのだ」

「ルーツァの友であろうと、母であろうと、私のやることは変わらない」

「私の知っているアルマイオから随分と変わってしまったようだ。一体何が君をそこまでさせるかね」


 2人の話し合いをしている間にも、燐衣の魔女の怒りは増幅し続けている。

 彼女の青い炎はより輝きを増していて、真下にある城壁が歪み始めている。早くリリベルを救い出して燐衣の魔女を倒さなければ、この島は文字通り塵1つ残らなくなってしまうだろう。

 奴の魔力を感じたのか、俺のすぐ横にいるセシルが身体を動かさぬまま、俺だけに聞こえるように言葉を発する。


「燐衣の魔女の魔力が一ヶ所に留まり続けているようだけれど、どういう状況なの……?」


 彼女はヘズヴィルの命を奪うために、目蓋に縫い付けていた糸を切ってしまったため、今は自発的に目を閉じることで瞬きによる抽象的な死を防いでいる。

 やはり彼女は周囲の魔力を感じることができるようで、目を閉じたままでも周囲に誰がいるかまで分かっているみたいだ。ただ、聖堂を囲むように作られた見えない壁の存在には気付けていないようだ。

 見えない壁に阻まれて燐衣の魔女が聖堂の敷地内に侵入できないことを伝えると、彼女は合点がいってくれたようだ。


「それじゃあ、城門の奥にいる国民には今の所被害が及んでいないのね……?」

「その通りだ」


借視権(しゃくしけん)……』


 俺の肯定の言葉を聞いた瞬間、明らかに彼女は魔法を詠唱した。思わずぎょっとしてしまう。


「一体何の魔法を使ったんだ?」

「1人の国民の視界を借りたのよ……。ああ、あの辺りにいるのね……。綺麗な青色……」


 目蓋の外側の景色を中々見る機会が無いため、彼女は他人の景色から見える色を楽しんでいた。楽しんでいる場合ではないと小言を言いたくなるところだったが、彼女の目に関するこれまでの背景を考えると、いざ口にすることはできなかった。


「さっき使っていた魔法、『黙視権(もくしけん)』だっけか? その魔法と何が違うのだ?」

「さっきの魔法は、相手の目そのものを奪っているの……。相手の視界は真っ暗なままよ……。でも、今使っている魔法は、あくまで相手の視界を借りているだけで、その人はいつもと変わりない景色を楽しむことができるわ……。後、この魔法は相手の視力を奪うこともしないわよ……」


 他人の目を借りるか、奪うかという違いがある魔法だということは分かったが、なるほど彼女らしいと思った。

 より砕いて言うならば、彼女は敵とそうでない者との区別をして魔法を使っているのだ。

 魔女は己の欲望に忠実で、欲望の実現のために他人や周囲の状況がどうなろうが知ったことではないという考え方をする奴ばかりだと思っていた。

 だが、セシルは問答無用でどのような者でも視界を奪う訳ではなく、他人に配慮しているらしい。そういう意味では魔女らしくない。


「それで、燐衣の魔女は止められそうか? 俺の力だけではもうどうにもなりそうに無い」

「分からないわよ……。無意識で人を殺したことはたくさんあるけれど、意識的に人を殺したことはあまり無いもの……。それにあの女、不死なんでしょう……」


 彼女から良い回答はもらえなかったので、再びクレオツァラとアルマイオの会話に意識を集中させようとしたが、どうやら対話する段階では無くなってしまっているようだ。


「剣を構えろ。本気で戦わせてくれ」


 アルマイオは長い槍を1度思い切り地面に叩きつけて、振り上げる。


「ヒューゴ殿、準備は良いですかな」


 俺とクレオツァラは黒剣を構えてアルマイオと対峙する。


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