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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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赤色

 ヘズヴィルとの戦いが呆気なく終わった後、黒鎧の魔法を解いてからセシルとクレオツァラが生身の俺を引き上げてくれた。

 引きずられた後はそのままセシルから回復魔法を受ける。

 クレオツァラによると俺の傷は相当酷かったようだ。何せ鎧の破片があちこちに突き刺さっていたのだ。鎧が無くなると同時に破片も霧となって無くなったため、痛みに耐えて破片を抜く作業は省かれた。

 その代わりに破片のおかげで止まっていた血が、(せき)を切ったように傷口から溢れ出してしまうため、セシルもクレオツァラも少し焦っている様子だった。


 すぐに傷を癒やすことができる魔法がこの世に存在してくれてありがたい。魔法様様(さまさま)である。

 そのような感想を彼女に述べてみると、即死していない幸運を噛み締めるよう忠告されてしまう。確かに幾ら回復魔法を詠唱してくれる人が近くにいようと、対象が死んでしまったら傷を癒やしても意味がない。


 自身の運の良さと身体の頑丈さに感謝する。




 身体が動かせるための必要最低限の傷だけを癒やしてもらい先に進むことになる。

 必要最低限と言っても、出血は全て止まっている。


 回復魔法の精度には、魔力の量だけでなく目で傷を確認して治すイメージを持つことが大事だとリリベルから教わったことがある。

 傷を目視した方が効率が良いのだ。傷を直接見なくとも、その身体にただ魔力を流し込むことで傷を癒やすことも可能ではあるが、時間はその分浪費してしまう。


 つまり、セシルは回復魔法を使うには向かない魔女なのであるが、それでもこれまで受けてきた回復魔法の中で、彼女が1番傷の治りが早いと思った。

 傷があらかた治るまで身体を動かさないように指示されたので、直接傷口を確認することはできなかったため、どれだけの具合だったのかは分からない。

 それでも口から血が出る程には重傷だった。その傷を彼女は、聖堂の方で見えない壁と未だ格闘している燐衣(りんえ)の魔女を見る余裕ができたと思った頃には治してしまったのだ。

 もしかしたら、俺やリリベルも知らない回復魔法の極意を習得しているのかもしれない。もし、そうだとしたら是非彼女の知識を取り入れてみたいものだ。


 動いて良いと彼女からの許しをもらって、上体を起こして腹や胸を確認してみるが、血の跡は多少あれど傷は全く無くなっていた。

 血を失ったことで、目眩と気持ち悪さと眠気のようなものを感じるが、それは我慢でどうにかしてみせるしかない。

 血を操ることに長けているエリスロースがいたら簡単にこの問題を解決できたかもしれないが、彼女は銀騎士と対峙しているはずだから我儘は言えない。


『おい』と再び詠唱して作り直した黒い鎧を身に纏う。この魔法の便利なところは、鎧が破壊されても詠唱しなおすことで元の綺麗な鎧を作り出すことが可能だということだ。

 武器や防具にかかるはずの金を出費しないことは、騎士や兵士からしたら垂涎(すいえん)ものだろう。武具に関してはリリベルのおかげで、不自由無く騎士としてやっていけている。

 ただ、彼女の優しさに見合った働きができているかと問われてしまえば、今の俺ではまだ首を縦にふることはできない。


 歩を先に進める前に、ヘズヴィルが落ちた崖に向かって心の中で謝罪を尽くす。

 命を奪ってしまって申し訳ないと、誰に聞こえる訳でも無い独りよがりの詫びを何度も何度も繰り返す。それで俺の気が済む訳でも無いのにひたすらに謝る。


 セシルに促されることで、なんとか俺は後めたさを引っ込めることができ、坂を進むことができた。




 大通りを走り続けて、渦巻き状に曲がっていく道が段々と強い曲線になっていくのを感じ始めた頃に、聖堂前に辿り着く。

 聖堂の門から奥には大勢の国民が避難していて、人で埋め尽くされている。

 聖堂の周囲を囲む城壁の上では幾人かの騎士がいて、ほとんどは燐衣の魔女を迎撃するべくあらゆる攻撃を仕掛けているのが分かった。


 聖堂に入る門には1人の騎士が立っていた。

 その騎士の横を通り過ぎてしまえば、あっさりと聖堂内に入って行くことはできるが、赤い騎士はそれを許してくれそうになかった。

 強烈な殺気を放っていて、頭全体に覆った兜で表情は見えないが、兜の中にある目が俺たちを突き刺すように見ていることは間違い無いだろう。

 赤い騎士の名前はアルマイオ。


「ここから先へ足を踏み入れることができる者は、黄衣の魔女の騎士だけだ」


 携えていた彼の身体よりも遥かに長い槍を、彼は持ち替えて構える。

 リリベルは既に聖堂内へ入ったとみて良いだろう。

 先へ進むには彼を倒す他ない。

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