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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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銅色

 以前、オークに私の血を流し込んだ時は、彼らの他種族に対する強い憎悪の念のせいで、血の記憶が流れ込むと同時に自死を選んでしまった。

 元は私を慕ってくれる者たちのために、私の身体が無くなっても守ることができるよう血を分け与えていたのだ。私の血を受け入れた者たちは、少なくとも私に対して敵意を抱いていない者でなければならない。


 だから、私を慕わない者たちに血を流し込んだ場合はどうなるのか興味はあった。


 《俺は別にこの国に強い思い入れがある訳じゃねえ》


 なるほど、あくまでノイ・ツ・タットの騎士として使命に殉ずる気持ちはあったが、自分が生きていて、それでいて強い力を持つ者に生かされたなら特に逆らう気持ちは無いということか。

 これでは私の興味を満たすことはできない、ああできないさ。


 《そういうことだ。負けを認めるから、さっさと身体を明け渡しやがれ。身体の感覚はあるのに、俺の意志で動かせねえのが気持ち悪くて仕方がねぇ》


 1度対象に血を流し込んでしまえば、私の意志で身体中に流れる血を介して、銀色の彼を殺すことは可能だ。

 幸いなことにヴィヴァリエには、私の血の魔力を防ぐ程の魔力は無いようだ。もっとも、私の血の魔力を消滅させることができたのは、今のところ黄衣(おうえ)の魔女くらいだから、彼女が例外とするなら心配は特に無い。


「お、動かせるようになったぜ。ってか、身体の火傷も治ってやがる」

「私が治した。治すのは得意なんだ、ああ得意なんだ」

「んだよ、借りを作っちまったってことかよ」


 治療を借りだと思うなら、作った借りは早速返してもらおう。

 騎士ヒューゴの理想のために、燐衣(りんえ)の魔女の魔力に襲われるノイ・ツ・タット国民を守るようヴィヴァリエに依頼する。

 小汚い髪を揺らしながら彼は身体の具合を確かめながら、すぐに立ち上がって兜を被る。


「もし、また私の仲間に攻撃しようとするなら、その時は血の槍がお前の身体を内側から貫く」

「分かった、分かったって」


 随分と聞き分けが良い上に物事の切り替えが早い。

 彼は裏切らないような言い方をするが、私より更に強い力を持つ者に抑えつけられれば、すぐに鞍替えするだろう。

 血の記憶で読み取った彼のこれまでの人生から、彼が心変わりしやすい性格であることは容易に想像できる。


 注視は必要だ。


 《魔女様、俺たちは次はどうしましょうか》


 もちろん彼らの後を追う。

 黄衣の魔女を心配しているのは彼だけではない、ああ彼だけではないのだ。



◆◆◆



 酷い(にお)いだ。

 火事を逃れようと坂を上がって行った国民たちだったが、炎の波に逃げ遅れた者や、燐衣の魔女が駆け上がった道のりに巻き込まれた者などがあちこちにいる。どれもぐずぐずに崩れている。


 俺たちは、その大通りの地獄のような景色を見ながら坂を駆け上がって聖堂を目指している。


 聖堂の方向を見上げると、青い炎が妖しく輝いている。炎の中心から蛸のような長い手足の形となった炎が、聖堂の城壁の上で貼り付いている。

 島全体を覆う見えない壁があったが、どうやら聖堂を囲む城壁にも同じ仕掛けが施されているようだ。


 青い炎の塊から生えた手足のような炎は、殴りつけるように何度も見えない壁にぶつかりその度に爆発音と青い炎が周囲に撒き散らされる。

 撒き散らされた炎は欠片でも家の屋根や生えている木に触れると、一瞬で光を放ち燃え上がる。そして瞬きする間にそこにあった物が無くなっている。一瞬で焼け溶けているその様に、恐怖以外の感情をどうして感じ取れようか。


 大通りの坂も中腹を超えた辺りだろうか。ここから海の景色を見ると、僅かな月明かりに照らされた水平線が辛うじて確認できる。




「ヒューゴ殿!」


 先導するクレオツァラが突如俺の名を呼んできたので、前を向いてみたが特に何も無い。

 なぜ叫んだのかと問いかけようとしたところで、視界が影に覆われて暗くなる。元々夜ということもあるが、更に暗く感じたとでも言えば良いだろうか。


 それでクレオツァラの叫びのおかげで、頭上に何かいると察知することができた。

 鎧を着込んでいることもあり、背負っていた黒盾を構える暇は無かったので、咄嗟に盾を背負う背中ごと空に向けて防御体勢を取ってみる。滑稽な姿かもしれない。


筋力増加(ハイパワー)


 頭上から聞こえた声はくぐもって聞こえたが女の声だった。聞き覚えのあるその声の主は、銅色の騎士ヘズヴィルのものである。


極光剣(きょっこうけん)!』


 後ろから強烈な光が差す。その掛け声と光には覚えがある。剣に魔力を付与し、剣の威力を高めたり、あるいは魔力を剣の振りと同時に解き放つ技だ。


 その2つのできごとの後、俺は背中から強烈な衝撃を浴びせられる。腰から上下に千切れたのではないかと錯覚させる程の衝撃で、一瞬だが俺の呼吸を停止させてきた。


「ヒューゴ……!」


 セシルの控え目な呼び声が聞こえてすぐに意識を取り戻し、盾を改めて構えて前に振り向く。

 人間の身体と同じぐらいの大きさがある巨大な銅色のハンマーを肩に落とすヘズヴィルがいた。


 クレオツァラは光輝く剣をヘズヴィルに振っていたが、彼女はすぐに振り返ってハンマーを身体の回転の勢いに乗せてぶん回す。

 重厚な鎧と巨大なハンマーをまるで細枝を振るような速さで動き回っている。


 銅色の騎士は確実に俺たちをすり潰そうとしている。


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