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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第6章 狂った正義の味方
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憤怒

 遠くで断続的な爆発音が聞こえてきて、アルマイオが誰かと戦っていることが分かった。

 既に夜は深くなっており、外で大きく騒ぎ立てる野次馬は少ない。

 俺とクレオツァラは戦いの行く末を見たくて、勘定を済ませて足早に酒場を出る。


 店を出て大きな通りに出ると、外を歩いている国民は海が見える景色を探して、海側の家々の間の路地を駆けて行く者がちらほらと見えた。

 俺たちは海の景色を目指す人たちの後を付いて行き、路地をすり抜けていくと石でできた壁に突き当たる。壁と言っても腰程の高さまでしか無いので、その先へ超えていくことは容易だ。ただ、越えた先は崖なので誰もその先へ行こうとはしない。


 人々は横に並んでその壁から海の景色を見ていたので、俺たちも壁沿いに歩いて行き、空いている場所を探す。野次馬の数はそう多くないので、すぐに人の寄りかかっていない壁を見つけることはできた。


 壁の向こうに広がる海は正直真っ暗で見辛い。どうにか目を凝らして海の上に浮かぶ大きな物体があることを確認するが、物体の形を細かに把握することはできない。

 だが、海に浮かぶ大きな物体と言えば大体は船だろう。自然と視界に映る黒い大きな影は、船に置き換わる。


 たまに爆発音が海上に響き渡ると、口笛のような音と共に何かが飛来してきて、突然空中で花火のように光る。光は見えない壁にぶつかったように不自然に跳ね返って、爆発の破片を撒き散らして海に落ちていく。


 彼らは家々から出る光を目標に大砲を撃てば良いので、攻撃するのは楽だろう。

 だが、その攻撃は1発たりともこの島に被害を与えることはない。


 しばらくすると、大砲を撃った時の爆発音とはまた違う音が海上を響かせた。



 ◆◆◆



「ヴィヴァリエ、どうした?」


 敵襲の対応は俺が受け負ったはずだが、わざわざヴィヴァリエが船上にやってきた。やけに彼は焦っている。


(わり)いな。お前は小船に乗った女を放っておけと言ったが、どうにも嫌な予感がしてならねぇんだ。俺はあの女を殺――」

「小船の女って僕のこと? おじさん」


 この船の者は皆殺しにしたはずだったが、いつの間にか女が紛れ込んでしまっていたようだ。その華奢な身体でどうやって船に上がってきたのかは不思議だが、今はそれどころでは無い。

 彼を説得せねばなるまい。


「傷付いちまうなあ。俺はおじさんじゃねえ――」


 ヴィヴァリエは愛用している魔力銃を取り出して、明らかにあの女を撃ち殺そうとしている。


「お兄さんだ!」

噴火(ヴァルカン)


 あの女を敵認定するのは、この一瞬だけでこと足りる。

 女は魔法を詠唱し、俺とヴィヴァリエの足元から炎の柱を上げさせた。炎の柱には木片が混ざっていて、それがまるで噴石のように飛んで来ている。

 この攻撃は我が国民に、弟に害をなすだろう。


(あっち)いな! このクソ女!」

「ヴィヴァリエ! 我々に攻撃を加えてきた現時点を持って、この女は殺す。下がっていろ」

「ええ? ああ、お前がやるって言うなら良いけどよ」


 相手は戦闘に関しては素人のようで、1発魔法を撃っただけで様子見をしている。その油断が命取りだ。

 一瞬で刺し殺す。


刺突(しとつ)


「は、速い! お兄さん、すごいね!」


 感心している間に防御の体勢でも取れたものを、この女はただ無防備に呆けている。胸を槍で突き刺すのは簡単だ。

 女は五月蝿い悲鳴を上げて、その場に倒れ込んでのたうち回っている。

 槍が刺さっているせいで槍先が床に突っかかる度に、身体を抉って悲鳴を上げている。悲鳴を上げるぐらいなら、この島に来なければ良かったんだ。攻撃してこなければ良かったんだ。

 自業自得だ。


「痛い!! 何でこんな酷いことするの! 痛いよ痛い!」


「ヴィヴァリエ、お前の心配ごとはこれで晴れそうか?」

「いや、嫌な予感がまだびんびんするぜ」


 それならこの女の首を斬り落として黙らせてやる。そうすれば彼の杞憂も解消するだろう。


「痛いよ! 痛くて苦しくて気持ち悪くて辛くて、腹が立つよ!」

「胸に槍が刺さっているのに、よく喋る女だぜ……」

「今、静かにさせ――」


「腹が、立つ!!」


獄炎(へレンフォイア)!!』



◆◆◆



 突然、1隻の船から火の手が上がった。不自然に巨大な火炎が、生き物のように動き回って船を破壊している。

 木でできた船は一気に燃え広がり、大きな灯りになった。


「ヒューゴ殿、あの炎はまさか燐衣(りんえ)の魔女のものではないか?」

「あの生き物のように動き回る炎は見たことがあります。燐衣の魔女の魔法で間違いないです」


 だが、リリベルと俺があの魔女と対峙した時に見た動き回る炎は、この島を軽く呑み込める程に巨大だった。

 もしかして、以前に戦った時よりも魔力量が落ちているのではないだろうか。そうだとしたら僥倖だ。




 その後、動き回る炎が燃え盛る船の中に埋もれると、再び火の手が上がることは無かった。

 船は燃え続けて、船としての役割を果たせなくなると火の手を上げたまま海の中へ沈んでいった。


 次に聞こえてくるのは、他にもあった黒い大きな塊が順番に破壊されていく音と、微かに聞こえる悲鳴だった。それらは海上に木霊しながら島に届けてくれた。聞いていて心地の良いものではない。


 アルマイオが燐衣の魔女を倒したのだろうか。

 リリベルの今の状態を考えると、その結果で十分なのだがここからでは確かめる術が無いのがもどかしい。


「明日、再びアルマイオに会いに聖堂へ行きます。炎のことについて聞くつもりです」


 俺とクレオツァラは来た道を戻ってから、エリスロースの家へ帰った。



◆◆◆



 槍が重くて下に沈んで行っちゃうよ。浮き上がれないよ。


 海の水ばっかり飲んじゃって、たくさん吐いてるけれど、やっぱり海の水を飲んじゃう。

 息ができなくて、血が止まらなくて、もう何回死んだのか分からないよ。

 酷いことするなあ、お兄さんたち。


 痛いなあ。苦しいなあ。

 こんなに何度も痛くて苦しい思いをさせられると、お父さんやお母さんが死んだ時のことを思い出しちゃうなあ。


 そうやって僕の1番苦しい思い出が頭の中に甦る度に、腹が立ってくる。本当に、本当に腹が立つ。

 争いが憎い。


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