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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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優しさと恨み

 暗闇に紛れて、丘の影からエリスロースが話していた軍隊がいるか確認してみると、彼女の言う通り黒い影が所狭しと綺麗に整列していた。兵士たちは、この地上に月の脅威がなくなったため、少しずつ谷から離れて行くのが分かる。

 横からシェンナも顔を出して、兵士たちの様子を窺っている。


「私たちは夜明けを待たずにここから去るつもりだ。アンタたちはどうするつもり?」


 シェンナの問いに俺は後ろにいるリリベルの顔を見て尋ねる。彼女と目が合うと返事してくれた。


「私たちも早く帰ろう。身体を洗いたい。全く、どこかに出かける度に、いつも服やら身体が臭くなっている気がするよ!」


 いきなり頬を膨らませながら文句を言い始めて、今も尚角の生えた四足歩行動物のように突進しようとしながら文句を垂れている。彼女の頭を手で押さえてこれ以上突進しないよう止める。

 意外と綺麗好きな所がある彼女の願いは叶えてやりたいが、旅とはそういうものではないだろうかとも思う。

 疲れているからか、俺たちのやりとりを見ている他の者は、空笑いで済ませようとしている。


 とは言え、今まで背中に背負っていた鞄は、谷底に落ちた段階で腐臭を放っているし、谷底の血で形成されたドラゴンのエリスロースに乗っていた時は、服や肌に匂いが染み付いてしまっている。

 今までの巡るめく場面の変化について行くのが精一杯だったので、気分が落ち着いた今、改めて俺自身最悪な臭気を放っていることに気付いた。リリベルの言う通り、風呂には入った方がいいな。




「私たちは先に行く。それでは、またどこかで会おう」

「おせわになりました。魔女様、ヒューゴさん」


 シェンナとダナが依頼主の元へ報告するために、別の国へ向かったのを見届けてから、俺たちもノストーラへと足を運び始めた。しばらくこの何も無い殺風景な大地を歩くことになる。

 暗闇に紛れいていたどこかの国の軍隊は、いつの間にか完全に撤退していて影すら残っていなかった。


 最後にオークの谷の方へ顔を向けると、谷の縁に2体の影があった。近くにアギレフコの残した白い結晶があったので、その2体がオークであることはすぐに分かった。

 2体ともあちこちに怪我をした跡があるが、()()()()()()()()()()()()()、死ぬことは避けられたようだ。

 エザフォスを起こした後、彼等を縄で何重にも縛ってからすぐに『ヒール』を詠唱した。彼等が息を吹き返した時はもちろん安堵したが、何重にも縛った縄が一瞬で破壊されないか不安もあった。

 しかし彼等は、意識が甦った後も回復魔法を唱え続ける俺を見たからなのか、嬉しいことに戦意を喪失してくれた。


 距離は離れているから本当は違うかもしれないが、目が合ったような気がした。2体のオークはしばらく俺を見つめていたような気がしたが、その後はゆっくりと背を向けて谷の下へ消えて行った。


 願わくば、次にオークと出会うことがあれば、いきなり殺されかけないようにして欲しいものだ。

 散々、流れ星に願いを掛けたのだから、今更1つ2つ増えたところできっと問題はないだろう。俺は歩きながら、流星を見つけたら願いを追加した。


「本当にお人好しだな、お前」


 エリスロースがいきなり後ろを向いて歩きながら、俺にダメ出しをしてきた。彼女の言葉から察するに、オークの命を助けたことを指して話しているのだろう。他人の記憶を読み取ることができる彼女の能力は厄介だ。

 彼女には全てがお見通しであるかのような感覚になってしまい、バツが悪くなった俺は苦し紛れに、「次からは頑張る」と自分でも意味不明に思える弁明をした。

 彼女はその言葉の意味も理解しているのか、「そうしてくれ、ああそうしてくれ」と返答して再び前を向いて歩き始めた。





◆◆◆





 ひさしぶりに谷底に帰ってみたら、僕のじっけんしつが滅茶苦茶になっていた。

 誰がこんなヒドイことをしたの?


 僕の作った可愛いペットがいっぱい死んでる。かわいそう。

 死にかけの『にんげん』や『ごぶりん』や『えるふ』がいっぱいいる。ちょっとだけかわいそう。


 もったいないなあ、中身がもったいないなあ。


 犯人はきっと悪い人だ。

 ヒドイことをした犯人を見つけなきゃ。

 手足を取って、またくっつけなきゃ。




 魔力をいっぱい感じるなあ。どこかで感じたことのある魔力だなあ。


 あ、思い出した!黄色いお姉ちゃんの魔力だ!




 もう、お姉ちゃんは意地悪だなあ。


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