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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
プロローグ
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緋衣の魔女たち

散血(フィレマ・タ)

血飛沫(トゥ・アルマ・タ)

流血(ノクタ・タ)


 町人が少しずつ俺たちの方へ集まってきているのだろうか。

 宿屋へ向かう間に遭遇する人が増えてきた。

 そして例外なく、皆襲ってきた。

 彼らは血を操る魔法を口々にしながら、ある者は血を針の形にして飛ばしてきたり、ある者は血を波のように襲いかからせたりして攻撃を仕掛ける。


 だが、どんな魔法を放たれようとも黄衣の魔女の一言で、次の攻撃が来ることはなかった。


瞬雷(しゅんらい)


 魔法を使う場面を初めて見た時から、こいつが負ける姿を想像できない。

 それほど黄衣の魔女から放たれる雷の魔法は、圧倒的な力と速さを持っていた。


 自然に発生した雷が落ちた場所を見たことがあるが、その範囲はせいぜい木1本分の広さほどだ。

 しかし、この魔法は家1つを軽く飲み込む範囲に叩きつけるように雷が落ちる。

 ただただ、圧倒的だった。


 とは言え、雷の魔法をこう何度も放たれると、俺の目と耳がおかしくなっていきそうなので、早くこの町を抜け出して安心したいところだ。






 なんとか宿屋に到着し、部屋にある荷物を確認していた。

 黄衣の魔女は汗をかいたことに不満があるのか、自身の体臭を気にかけている様子だった。

 俺は魔女に先程思いついたことをふと語ってみることにした。


「お前に質問してみて気付いたのだが」

「うん?」


 黄衣の魔女は素直に向き直って俺の話に参加してくれた。


「緋衣の魔女は、1人ではないんじゃないか?」

「複数人いるということかな?」

「複数人いるというよりかは、この町人全員が緋衣の魔女だと俺は思う」


 黄衣の魔女は目を丸くして、少しの間固まった。

 固まった後、すぐに微笑んだ。

 緋衣の魔女と違ってこいつは目も笑っているので、単純に笑っているのだと安心して受け取ることができる。


「なぜそう思ったんだい?」

「あいつは『我々の意思はこの町に流れる血全てに宿る』と言っていた。俺はてっきり血を介してどこかにいる本体が操っているものかと思っていた」


「だが、町人たち皆が血の魔法を使ってきた時に疑問が生まれたんだ。なぜ皆()()()()を使ってくるのか。なぜ皆()()()()()()()で魔法を放つのか」


 魔女に限らず、魔法を扱う者はその魔法の修練度や魔力量によって、放たれる魔法の精度が変わるということは聞いたことがある。

 魔力石にも通じる話で、この町で売られていた魔力石は、城で売られていた魔力石とは形も色も異なっていた。素人目に見ても良い魔力石ではなかった。それは石を作製した人の魔力に違いがあったからだ。


「操っているだけなら、放つ魔法に個人差が現れるはずだ。ましてや兵士でもないただの町人。仮に同じ訓練を受けた人たちだったとしても、個人差は必ずある」


「それなのにここの町人は全員が同じ魔力量と精度で、魔法を放ってくる。血の針の大きさも全く変わらないし、血の波の大きさも一定だ」


「それで中身は同一人物じゃないかと思ったんだ」


「中身が同一人物であろうと考えられる共通点といえば、血だ」


「それで、分かったんだ。血に緋衣の魔女の魔力が宿っているのではなく、血そのものが緋衣の魔女だから魔力を持っていたのだと」


「だから皆、全く同じような魔法を放つことができているのだと思う」


 なぜか黄衣の魔女はすごくご機嫌だ。

 その笑みから本当の感情を読み取ることが全くできなくて正直怖い。


 俺は述べたことが間違っていないか確認のために、魔女に対して意見を求めてみた。


「君は血の魔法の癖を観察していたんだね? あの一瞬で」

「ま、まあそうだな」


 魔女はふうんとまた何か勝手に納得したような素振りを見せた。


「ありえる話だね」


 腐っても高名な魔女。その魔女のお墨付きをもらえたことは少しばかりの安堵感を与えてくれる。


「なぜ襲ってくるのかは結局分からないが、町人を何人も死なせているのに変わらず魔法を放ってくるということは、呪いも解けてないのだと思う」

「それも私はそう思う」

「……なんだか適当に答えていないか?」


 つい本音が口から出てしまった。


「え? ああ、ごめん。今の私には、君が言うことは全て心地良く聞こえてしまうんだ」


 どういう意味か理解できなくて怖い。

 いずれにせよ俺の『魔女の呪いを解く』という願いは達成できそうにないのだから、後は立ち去るだけだ。

 荷物を背負って、窓の外の様子を(うかが)うと、俺たちがいる宿屋の周りには大勢の人が松明を持ってこちらをただ見つめていた。


 おそらく皆、ただの町人ではないのだろう。


 俺の横にいる黄衣の魔女がいれば、おそらく全滅できる。

 だが、俺は殺してほしい訳ではない。彼ら自身には何の罪もないのに、この先死んでいく様を見ていったら俺の心が罪悪感で押し潰れてしまいそうになる。余計なことに首を突っ込んでしまったばかりに、と。


 だから、1つの決断をした。


「頼みがあるんだ」


 魔女はきょとんとした顔でこちらを見つめていた。


「正当防衛とはいえ、町人を既に何人か殺してしまった。いや、殺させてしまった。俺はこれ以上彼らに傷付いてほしくないし、お前に彼らを殺させたくないんだ」


「正直に言うと、これから永遠にとは考えていないが――」


「お前の騎士になる」


 俺は頭を下げて誠心誠意、黄衣の魔女に身勝手な願いを告げた。


「だから、力を貸してほしい」


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