家庭教師をしていた雪女、教え子と一夜の過ちを犯す。
とても寒い冬の夜の事でした。
吹雪の音の中に、誰かが戸を叩く音が聞こえたので、慌てて迎え入れました。
「どうか何も言わず置いて下さいまし……」
それは、齢二十五の若い女でした。
迎え入れた青年は、そういった欲を表に出すこと無く、その女をしばし置いてやることにしました。
女は家事がとても上手く、青年と気が合った為、青年はそのまま妻として娶りました。
「……そう言えば」
季節が何度か巡り、また吹雪の夜のこと。
男は囲炉裏にあたりながら、ふと上を向き、何かを懐かしむ顔をしました。
「昔、お前さんによく似た人が居てな」
女は無言で青年の顔を見つめました。
「高校受験の時に勉強を教えてくれた家庭教師の先生なんだが……」
酒を一口飲むと、男の口は更に軽くなっていきます。
「テストで満点取ったらしてくれるって話になって……その時たまたま満点取れて……その…………」
女は座ったまま、無言で話を聞いています。
「変顔をしてもらったんだ……見て。その時の写真」
赤い縁の眼鏡のとても若い女が、写真に写っておりました。
「お前さん……」
女がようやく口を開いたかと思うと、上着のポケットから、赤縁の眼鏡を取り出し、そっとかけました。
「み、美雪先生!?」
青年はとても驚きました。
「あの時、あれ程口外してはならないと言ったのに……」
「ち、違うんです先生……!」
「命を奪うことはしませんが、もうあなたの傍には居れません。では……」
女は吹雪の夜の中、静かに何処かへと行ってしまいました。手には変顔の写真を持ったまま……。
「美雪先生ーーーー!!」
青年の無念の叫びが夜の闇へと解けてゆきます。
「あの当時も二十五って言ってたけど、本当は今何歳なんだーーーー!?」
青年の問いかけに、吹雪の音だけが虚しくこたえました。