仮想世界で日常を
『そんな毎日も』
「えーっと、眼鏡……」
「机にあったよ。はい」
「あ、ありがとう。あと、おはよう」
「うん、おはよう」
なんてことのない会話。
でも、そんな日常が過ごせるようになるまで随分長い時間がかかった。
技術の発展。論理感の変化。
連続ログイン、730時間。
君との同棲が始まってから、一月目の今日。
***
『仮想世界で恋をしたっていいよね』
いつもの場所、いつもの時間。
「また振られたんですか?」
そこは、現実ではないけれど。
皆が暮らす世界。
「もう絶対に人を好きになったりしない……」
「そのセリフ何回目ですか」
場所なんて関係ない。
誰かを好きになるなんてことも、あたりまえに起きることだ。
「まぁまぁ、そう言わずに。元気出してくださいよ。案外身近に新しい恋があるかもしれませんよ?」
ふわり。
私を抱きしめてくれる、君の影。
「はぁぁ…………好き」
「「チョロい」」
***
『瞬き』
「目にゴミでも入った?」
「ウィンクのつもりなんだけど……」
ウィンクと言うが、彼女のソレは瞬きしているようにしか見えない。
「いるよね、ウィンクできない人」
「むぅぅ、前はピースだけでできたのに!」
この新しい世界では表情を一つ作るのにも苦労する。
それがまた、微笑ましいのだけれど。
***
『変わらない毎日』
暖かい、感触なんて、嘘だけど。
感情だけは、本物だから。
ここでは毎日が春で、夏で、秋で、冬で。
いつだって朝で、昼で、夜なんだ。
だから、今日という日の夏祭りになんて、なんの意味もないのに。
隣に君がいるだけで、いつもの花火が、特別なものに思えるんだ。
「また明日」
明けない夜。
終わらない花火の下。
毎日、同じ約束を繰り返すんだ。