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少年と少女

作者: たなか

少年は、幸せだった。

朝起きれば、家族がいて、温かいごはんがあって、お弁当も用意されていた。

学校に行くときには、清潔なシャツとお古ではない制服に袖を通すことができた。

学校での成績もそれなりに良く、周りともそれなりに仲良くやっていた。

家に帰ると、おかえり、と出迎えてくれる人が居た。

毎日温かいお風呂に浸かって、いい香りのするシャンプーで頭を洗えた。

夜寝るときには凍えることなく、質のいい毛布にくるまって、朝まで安心して寝ることができた。

少年は誰から見ても不幸ではなかった。不幸の只中にいる人からしたら、大いに幸せそうに見えただろう。

少年は幸せなはずだった。

しかし、少年が幸せを実感することはなかった。

少年にとっては、温かな食事だって、級友だって、治安の良さだって当たり前のことに過ぎなかったから。

それら無しの自分など想像もできなかったから。

少年は幸せになりたがった。

幸せだと声高々に言う人たちの真似をすれば幸せになれると信じていた。

それを、いまだに手にしていない自分が幸せであることなどありえないと思っていた。

少年は生涯、幸せを欲し続けた。





少女は不幸せだった。

両親を亡くし、親戚のアパートで小さな妹と共に暮らしていた。

日々の食事は、少女のお腹を満たすには少なかったが、妹には空腹を感じさせまいと少女の分を分け与えた。

親戚のはからいで高校に通わせてもらっており、昼間は工場で働き、夜は夜間学校へと通って勉強をした。

おしゃれといえば、かつて母親にもらったシュシュとリップクリームくらいで、同年代のこのような化粧品もアクセサリーも持っていなかった。

周囲は少女を哀れんだ。かわいそうだと口々に行った。

確かに幸せそうには見えなかった。

しかし、彼女は幸せを感じていた。

妹の笑顔。周りの人の温かさ。学校での勉強。一生懸命働いてもらったお給料。

それらが少女に幸せを感じさせた。

確かに少女は周りの女の子が羨ましかった。キラキラでかわいくて、あの輪の中に入りたかった。工場の制服じゃなくて、かわいいブレザーを着て、バッグにはお揃いのぬいぐるみだってつけたかった。

けれど何よりも生きていることが嬉しかった、大事な妹と生きていけることがありがたかった。

本当は両親と妹と四人で暮らしたかった。せめて、生きていてほしかった。

涙を流さない日は多くはなかったが、妹には泣き顔を見せまいと笑う少女は美しかった。

少女は生涯、かけがえのないその幸せをかみしめつづけた。






少年と少女は違う境遇に居た。

どちらが幸せだとか不幸せだとか、そんなことは本人たちにしかわからない。

どんなことに幸せを感じるか、なんて、人それぞれだ。

環境が人を変えることもある。

同じような環境でも、こころ次第で変わることもある。

ただ、一つ言えることは、少年も少女も同じ星の上にいるということ。同じ世界に存在するということ。

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