カブトムシだ
巨大バチから逃げ出した俺は森を彷徨っていた。
彷徨う間に出会ったデカカナブンとデカダンゴ虫を片っ端から叩き潰した。
必死だったから何匹倒したか分からないがステータスを確認したらレベルが5、拳打スキルが3、物理耐性が3、治癒力向上が2まで上がっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ。デカバチは巻いたな。」
ハチはヤバいだろ。
なんと言っても毒を持っているんだ。
地球のハチでも刺されたらアナフィラキシーショックで死ぬこともあるんだ。
異世界の巨大バチに刺されたら即死もあり得る。
「早く毒耐性スキルがほしい。ん?キャンプ場に出たか。」
どうやらデカバチから逃げて森を駆け抜けている間に鬼山キャンプ場に出たようだ。
ここにはデカ虫は・・・いた。
キャンプ場の中心広場に一メートルはありそうなデカ虫がいる。
「あれはもしかしてカブトムシ?」
光を受けて光輝く外骨格に天に向けて突き出す大きな角まさしくカブトムシである。
そのカブトムシは蒼いクリスタルを守っているようだ。
「態々ボスっぽいカブトムシが守っているからあの蒼いクリスタルが重要な物であるのは間違いないけど何だろうか?」
さてどうする。
あのカブトムシは間違いなく強敵だと思う。
見た目から推測するに物理特化で毒は持ってない。
つまり、俺にとってデカバチよりはカブトムシのほうが戦いやすいと思う。
(ボキッ)
「あっ!」
ハーフオークの巨体で身を屈めるのは辛いので頑丈そうな木の枝を持って身体を支えていたのだがハーフオークになって三桁を超えただろう俺の体重を支えられずに折れてしまったのだ。
何かしらのスキルを持っているのか生来の能力なのか分からないがデカ虫は地球の昆虫と同じで気配に鋭い。
デカカナブンが俺のハンマーを軽々と躱していたことからも証明済みだ。
俺のハンマーが見え見えの攻撃と言う意見は受け付けない。
俺のバレてませんようにと恐る恐るもう一度カブトムシに視線を向けるとカブトムシと目が合った。
虫の目は複眼で視野は広いが遠くは見えずらかったはず。たぶん。
だから、カブトムシが俺を見ているような気がするのは気のせいだ。きっと。
ジッと動かずにいれば分からないはずだ。おそらく。
頼む。
見逃して。
戦うならこっちが先制攻撃できる状態で戦いたいんだよ。
俺の願いは聞き届け・・・・られなかった。
カブトムシは羽を広げると視線を俺に向けたまま宙に浮かぶ。
身を屈めた状態では対処できない。
俺は覚悟を決めて立ち上がってハンマーを構える。
(ブォン!)
音がここまで響きほど力強く羽を動かしたカブトムシが一直線に風を切って向かってきた。
デカダンゴ虫と同じ一直線の体当たりだがスピードが全く違う。
それでも視認できない速さではない。
踏みしめていた足の力を使い素早く飛んで躱した。
(ドン!)
「おいおい、マジですかい?」
一直線に飛んできたカブトムシは俺が背にしていた木に突き刺さっていた。
どうやらスピードだけでなくあの角の強度も注意しないといけない。
ハーフオークになって身体が頑丈になっているし物理耐性スキルもあるから一撃でやられることはないと思うけど少ない無いダメージを受けるはずだ。
視認出来ているのでダンゴムシと同じようにカウンターをきめることは出来ると思う。
「うおっ!」
カブトムシの攻略方法を考えているといつの間にかカブトムシは刺さった角を抜いて再び俺に向かって飛んできた。
一回目より目が慣れたのか二回目も無事にカブトムシの攻撃を躱した。
これならカウンターを狙うことが可能と確信を持てた。
俺は宙に浮かぶカブトムシに向かってハンマーを構えなおす。
(ブゥォン!)
「うりゃ!(ガキン!)」
カブトムシの突撃に合わせてハンマーを振ると何とカブトムシはハンマーに角を合わせてきた。
まるで金属を叩いたかのような音と衝撃が起こる。
ハーフオークになってなかったら腕の筋肉が断裂していたかもしれない。
吹っ飛ばすことは出来たがカブトムシはダメージを負ったようには見えない。
いかに頑強であろうとハーフオークの力と怪力スキルを合わせた力に何時までも耐えられないと考えた俺は何度もカブトムシの角にカウンターを叩きこむ。
(ミシ)
「まず。」
カブトムシの角より先にハンマーのほうが先に限界がきそうだ。
とは言ってもハンマー以外の武器はない。
そして敵は待ってはくれない。
再びカブトムシが突撃してくる。
俺はこの一撃で勝負を決めるべく意を決する。
失敗しても怪我を覚悟すれば逃げるくらいはできる。
俺は何度もカブトムシと攻防を繰り返して掴んだタイミングを待つ。
(3・2・1、今だ!)
カブトムシの突撃に合わせて踏み出して90度開いた左足に右足を引き付けることで半身になり攻撃を躱す。
好きな漫画のマネをして駅で練習していて良かった。
人生?オーク生?何が役に立つか分からないものだ。
カブトムシの無防備な背中目がけて俺はハンマーを振り下ろした。