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25 最愛



「大丈夫?」

「はい・・・お兄様がいれば大丈夫です。」

「ミデンがこんなにも私に甘えてくるのは珍しいね。」

 椅子に腰かけている私の隣に立つ兄。穏やかな声だが、本当のところどう思っているのかはわからなかった。

 常に穏やかな笑みを絶やさない兄は、ゲームでも同じようにミデンに接しており、最後の最後ミデンを追放に追いやるまで、ミデンは兄のことを味方だと思っていた。


 私だって、兄の笑顔の仮面の区別などつかない。もしかしたら嫌われているかもしれないという恐怖があるが、今私の側に残っているということは、少なからず好意を私に抱いていると期待していいだろう。でなければ、私を言いくるめて、兄は魔獣を倒しに向かうはずだからだ。




 1時間ほどたったころ、私達がいる教室に無傷のトゥリアがやってきた。なんで、と疑問に思う前に一緒に魔獣を倒していたのだろう、生徒会長も現れた。

 そうか、現実だから、攻略対象者とペアを組むという縛りはないんだ。


 兄の代わりに私を眠らせて馬車に乗せてくれた生徒会長も、もちろん魔法使いだ。攻略対象者がいないので、トゥリアは生徒会長とペアを組むしかなかったのだろう。たとえ、生徒会長も足止めできたとしても、次は先生とペアを組んでいただろう。

 うまくいかない。デュオやテッセラはうまくいったのに・・・エンも衝動で殺したが何とかなったのに、ヒロインはなかなか殺せない。やはり、世界に守られているのだろうか?それとも本当に強運の持ち主か?


 ゲームでも何度か危険な目にあったというのに、何とか助かっているのだ。校舎の外を歩けばフラスコが落ちてきて、すぐそばに落ちて割れ、破片が周囲に飛び散った。運よく破片がヒロインをよけたので怪我はないとか。体育倉庫に閉じ込められて扉を叩いていたら、上手く鍵が外れて脱出できたとか。

 まぁ、強運の持ち主なら仕方がない。こうなったら、自分の手で終わらすしかないだろう。エンのように・・・


 できれば、デュオやテッセラのように、間接的な方法で殺したかった。まぁ、デュオは重傷でとどまっているので、思えば本当にうまくいったのはテッセラだけだ。結果はともかくとして、順調に進んだ間接的な方法はとてもいいのだが、やはり確実性が高いのはエンのように直接やることだ。


 ちょうどいいイベントがあるので、タイミングを狙ってそのイベントを使い殺すことに決めた。




 いつものように兄の魔法で眠って帰った私は、ベッドで目を覚ました。至近距離にある兄の顔を見て、いつものことなのにいまだなれなくて顔が赤くなる。


「おはよう、ミデン。」

「おはようございます・・・いつもありがとうございます、お兄様。」

「かわいい妹の寝顔が見られるなんて、役得だね。今日は特にかわいいよ、ミデン。怖い思いをさせるのは可哀そうに思うけど、私のことを話さないミデンは愛おしくて・・・」

「え!?」

 言われて気が付いたが、私は兄の服の裾を掴んでいた。おそらく、魔法で眠っている間につかんだのだろうが・・・なんで?

 別に、魔獣の侵入では怖い思いをしなかった。兄の裾を無意識につかむような怖い思いなどしなかったのに、なぜ私はこのようなことを?


 慌てて手を離して、起き上がる。


「ご、ごめんなさい!」

「謝ることはないよ、ミデン。」

 距離を取ろうとした私だが、兄が私に迫って抱きしめたため動けなくなった。頭と背中に手を回されて、兄の胸に顔を埋める形になる。いつもふとした時に香る兄の香りが強くなって、息苦しくなる。嫌ではなく、ただ恥ずかしくて。


 力が抜ける。


「お、兄さ、ま・・・」

「かわいいミデン・・・大丈夫、私が守るから。」

 エンから同じ言葉が出た時は、嘘だと心の中で冷たく罵った。でも、今は・・・ただずっとここにいたいと思って、何も考えられなくなる。なんで?


 今目が覚めたばかりだというのに、私の瞼は自然におちていく。あたたかくて、いい香りで、ここは安全だってわかって・・・ずっとここにいたいと思ってしまう。


 駄目だってわかっているのに、1週目から心の奥底に封じたはずの気持ちがわき上がってきた。


 ・・・エクス。


 私がミデンに生まれ変わった時、最初は悪役令嬢という立場が嫌で、死なないために攻略対象者たちの好感度を上げるために努力した。それからヒロインのトゥリアと友達になり、もう危険がないってわかった時、やはりミデンは嫌だと思った。


 悪役令嬢にならなくても、ミデンは嫌だ。だって、ミデンはエンの婚約者だから。なら、エンの婚約者でなければいいのかという話だが、それでも嫌だ。

 たとえ、悪役令嬢として命を落とすことが無くなり、婚約者というものに縛られなかったとしても、私はミデンでいるのが嫌だった。

 理由は簡単、ミデンはエクスの妹だからだ。




 ミデンになる前、アリスモスの恋を始めてプレイした私は、たった一人を攻略するために、何度もバッドエンドを見て、気づいた。他の人を攻略してから出ないと、この人は攻略できない。

 それから、エン、デュオ、テッセラとハッピーエンドを迎えて、遂に私は目的の人と愛を育むことができるようになった。


 それが、エクス・スコティンヤ・プロートン。ミデンの兄・・・つまり私の兄。私は、決して結ばれない人が最愛だったのだ。


 エンも、デュオも、テッセラも好きだ。でも、最愛ではない。

 エクスがいないのなら、エンと結ばれても満足しただろうし、デュオでもよかった。でも、同じ世界にいるなら、エクスと結ばれたい。


「・・・お兄様・・・愛しています。」

「私もだよ、ミデン・・・」

 私は異性として、エクスは兄妹としての愛をささやく。それが胸を締め付ける。


 どれだけ好感度を上げようとも、私とエクスは兄妹だ。結ばれることはない。

 エン、デュオ、テッセラ、エクス、トゥリア。私に好意を抱いている人に囲まれていても、私は本当の幸せを手に入れられない。

 1週目の世界が不幸せだったとは言わないけど、私は一つだけ諦めるしかなかった。


 結局は死んでしまったので、私は1週目のすべてを諦めることになったが・・・今はそれでよかったのかもしれないと思う。


 最初からあきらめた、「エクスと結ばれる」ことは、私の中で大きなことで心に占める割合が大きい。もしもあのままエンと結婚したとしても、今回のように衝動で取り返しのつかないことをしていたかもしれない。


 思考を奥底へとしまい込む。考えても仕方がないことだし、何を考えたとしても私がすべきことは変わらない。だから、全部しまって忘れよう。


 トゥリアを殺して、デュオにとどめを刺して・・・・・・・・・


「・・・・・」

 テッセラは死んだ。エンはこの手で殺した。

 次にトゥリアを殺す。その次はデュオだ。そこまでくると、このデスゲームも佳境・・・


「エクス・・・」

 最後の最後に。


 エクス・・・兄を殺せば、私は1週目には生きられなかった未来を生きることができるだろう。




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