表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

2 2週目の一日



 これからどうするべきか悩んだ私は、朝食をとった後に庭へと出た。引きこもっていてもいいアイディアは浮かんでこない。体を動かしていろんなものを見たほうが頭は働くのだ。


 前回、私は攻略対象とヒロインに嫌われないように努力し、良好な関係を築いた。努力とは言っても、たいてい人として当たり前の行動をし、勉強さえしていればいいだけだったのだが・・・それでは駄目だった。

 断罪の舞台となる学園の舞踏会で、私は攻略対象者とヒロインではなく、学園長に断罪された。それも、罪を捏造されて。


「学園長の好感度も上げないといけないの?まさか・・・」

 まさかと思いつつも、学園長の好感度について考える。前回、学園長と話したことは数回。たわいもないことだったし、何も悪感情を持っている様子はなかった。

 授業は真面目に受けていたし、騒ぎなども起こしていない。優等生として通っていたので、学園長に嫌われる原因が思い当たらない。


 誰かが、私のことを嫌っていた?攻略対象者の誰かが、私をはめた?ふとよぎった考えだが、すぐに否定する。私は、すべての攻略対象者と仲が良かった。

 なら、ヒロインは?それも否定する。


 誰が、何のために。それが分からなければ、どのように行動すればいいのかわからない。


 いったん整理しよう。

 まず、この世界が舞台になったゲームをおさらいする。


 アリスモスの恋。ギリシャ語が多用されるが世界観は中世ヨーロッパに現代を混ぜ合わせ、ファンタジーをスパイスに加えた学園ものの乙女ゲームだ。

 魔法はあるが、設定はそこまで細かいものではなく、種類も大まかに光と闇がある程度。戦闘シーンに彩りを加える程度の価値しか、ゲームではなかった気がする。


 攻略対象者は3人と1人。この1人は、隠し攻略対象者ではなく、友情ENDを指しているらしい。友情ENDは、王族に影として仕えているテッセラ・スキアーという女性を攻略することで至る、エン王子ルートの派生ENDだ。


 そして、隠し攻略対象は、その友情ENDを含めすべてのエンドを迎えた者だけが攻略できるというもの。私の兄である、エクスがその隠し攻略対象だ。


 そんな攻略対象者たちと、それを攻略するヒロインと良好な関係を築いたわけだが、私は死んだ。ヒロインたちにとってのハッピーエンドなわけだが、私にとってのデットエンドに至ったわけだ。


 何がいけなかったのか?


 ふと目についた、大きな赤いバラの前で立ち止まった。ここまで大きくするのは大変だっただろう、私も大変だった。


 兄のエクスは、ろくに勉強をせず遊んでばかりの妹を、影ながら憎んでいた。笑顔で優しく接するものだから、ゲーム知識がなければ気づかなかったが。

 婚約者のエンは、ミデンの馬鹿さ加減と束縛にへきえきしていた。

 その婚約者の弟であるデュオは、自分のことを棚に上げてデュオをエンと比べて馬鹿にするミデンを嫌っていた。

 そのデュオを好きなテッセラも同じく。


 そう、ミデンが好感を持たれるためには、勉強をして頭をよくすることが必須だったのだ。だから、私は必死になって勉強した。そのおかげで、優秀な成績を収め優等生として名が通った。

 もしも、今回もすべての攻略者の好感度を上げるなら、勉強をしているふりをしなければならない。すでに収めた勉学だが、収めるふりをしなければ兄に疎まれるだろう。


 ちょうど兄のことを考えていたせいか、バラを眺めている私に兄が声をかけてきた。


「さっきぶりだね、ミデン。大きなバラだね。」

「そうですね。ここまで成長するには、いろいろ苦労があったのでしょうね。」

 前回、私が前世の記憶を思い出して行動を始めたのも今日だった。だから、兄は私を嫌っている。だが、そんなことおくびにも出さず、兄は私に微笑みかけてくる。5つ違いとはいえ、まだ10代とは思えない仮面の持ち主だ。

 そんな兄だが、私とは同じ時期に学園に入ることになっている。理由は、3年前まで兄は誘拐されて行方不明になっていたからだ。

 兄は優秀なので2年の遅れを取り戻すことくらい不可能ではないはずなのだが、なぜか王命で誘拐されていた2年分、入学を遅らせることになっていた。


 ヒロインが攻略するのが難しくなるからかな、とゲームの時は思っていたが、今思えば不思議な話である。ゲームの強制力だろうか?

 ちなみに、ゲームだとヒロインは兄以外のすべてを攻略し、最初からプレイすることによって、悪役令嬢ミデンに誘われプロートン家に招かれる。ドキドキ、悪役令嬢のお宅訪問イベントと呼ばれているそのイベントで、今まで噂を聞いたり見かけたりするだけだったエクスと面識を持つことになって、ルートが開かれる。


 エンルートで、毎回ぶつかってしまう男子生徒がいたのだが、それが実はエクスだったということが、ルートを開くことでわかり、そこの選択肢でエンルートかエクスルートかが決まる。


 そんなことを思い出していて、すっかり兄の存在を忘れていた。

 難しい顔をした私を、兄が驚いた様子で見ていることなど知らずに、ミデン2週目の1日が終わった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ