12 夜の王
エクス・スコティンヤ・プロートンが最初に誘拐されたのは、まだスコティンヤを名乗る前、魔法の才能を知られていない1才のときだ。3年間行方知らずだったが、ある日プロートン家の執事が、屋敷のサンルームで健やかに眠るエクスを発見。身体的特徴からエクス本人と判断された。
成長したエクスだったが、言葉を話すことは全くできなかった。
それから、5歳の魔力測定で、闇の魔法の素質があることが確認され、スコティンヤを名乗ることになる。その頃には、話すことを当然のようにできるようになって、分厚い本も易々と読むことができ、神童と呼ばれるようになる。
一時はどうなることかと思ったが、未来はこれで安泰のように思われたその時、再びエクスは誘拐された。2度目の誘拐も、1度目と同じように屋敷いたはずのエクスが忽然と消えた・・・といった全く手掛かりのないものだった。
プロートン家では、万が一のことを考えてエクスの兄弟を望んでいたが、生まれたのは男児ではなく女児。ゲーム世界の悪役令嬢、ミデン・プロートンが誕生。
エクスとは違って、こちらは誘拐などの危険な目には合わず、すくすくと育つ。
誘拐されて2年たったエクスは、1度目と同じように唐突に屋敷内で、プロートン家の執事が見つめた。今回は、健やかに眠るミデンを覗き込んでいるところを発見されたエクス。
報告を受けたプロートン家の当主は、城に報告しエクスの学園への入学を遅らせて様子を見ることにした。
もしもこれで終わるのなら、そのまま学園へと送り、卒業後次期当主として育てるつもりだった。
そして、学園の入学まであと1年というところで、再びエクスは誘拐される。
ここで、行方不明という言葉を使わないのは訳があった。なぜなら、これは誘拐だから。犯人はすでに分かっていて、理由も知っている者は知っていたのだ。
「夜の王は知っているかな?」
「夜の王?・・・確か、悪いことをすると、みんなが寝静まった夜に、その悪い子をした子供を攫って行くという、迷信の夜の王?」
「まぁ、さらわれた理由は、悪いことをしたからではないけど・・・子供を攫うところは正しいよ。お兄さんを誘拐していたのは、その夜の王だよ。」
「・・・私のこと、馬鹿にしてますか?」
「全く。稀にある話だから知っている人は、知っている話だよ。夜の王は気に入った子供を見つけると、自分の世界に連れていこうとする。でも、こちらの世界とあちらの世界は理が違うから、普通に連れて行くと子供が命を落としてしまう。だから、ゆっくり時間をかけてあちらまで連れて行って、すぐに引き返して子供を返すんだ。」
「それに何の意味があるの?」
「ゆっくりいくのは、世界の変化に体が対応できるようにするためで、最初は2年かけて行く。慣れてない体はあちらの世界には不向きだから、1年かけて戻って、こちらで回復させるんだ。」
それが、最初の誘拐の話ということだろう。2年と1年で3年・・・兄がいなかった期間と一緒だ。
「回復したらまた連れ出して、1年かけて行き、半年とどまって、半年かけて戻ってくる。」
2回目の誘拐。1年と半年が2つで、2年・・・だとしたら、今回の誘拐は・・・1年で戻ってくる。計算が合うというかなんというか・・・ぱっと思ったのは、カウントダウンのようだということ。3年、2年、1年・・・0。
0になったら・・・兄が帰ってきて、また誘拐されたらどうなるのだろうか?夜の王は兄をあちらの世界に連れて行くことが目的らしいので、そう考えれば0になったら、兄はもう帰ってこないような気がした。
スッと血の気が引いた。
おかしな話だ。兄は攻略対象・・・私のために死んでもらう人間。殺すつもりだったというのに、いざいなくなると思えばぞっとしてしまうのだ。
そっか・・・1週目の時、私だけが命を落としたと思ったが・・・兄も、命はあってもすべてを捨てることになっていたのだ。
そう考えると兄が近い存在のように思えて、私の心は温かくなる。でも、それもペンデの言葉によって、冷え切る。
ペンデは、私の予想した通り兄が1年で帰ってくると話して、帰ってきたら夜の王対策で、20歳になるまで学園には通わないことになると話していた。それは、確かにその通りだ。兄が学園に通い始めるのは20歳になってからだった。そうなると2年生だと思うが、兄は飛び級をして3年生になるから、ご都合主義だと思っていたが・・・
「20歳に近づくと、子供の方も抵抗力というか、簡単に夜の王にはさらわれなくなるんだ。だから、夜の王は自分の力が最も通じる学園で子供を待つようになる。だから、夜の王にさらわれないように、20歳の・・・成人になるまでお兄さんは学園に行けないんだよ。」
「つまり・・・」
学園は、夜の王のテリトリーで、他の場所なら攫われないように抵抗できる子供も、そこでは夜の王にさらわれてしまう。だから、夜の王の攫う対象の子供でなくなるまで、学園には通えないということ。
つまりは、兄にはもう何の危険もないということだ。さすが攻略対象・・・悪役令嬢とは違って、世界は優しくできている。
ヒロインとのハッピーエンドが用意されているのだ。回避不可のバッドエンドルートなど存在してはいけないのだろう。
「お兄さんが帰ってきたら、何としてでも学園に連れて行っては駄目だよ。まぁ、周りがそんなことさせないとは思うけど、ね。きっと、次にさらわれたらもう戻ってこれないから。」
「戻ってこれない・・・あっちの世界は、どんなところなのかしら?」
「さぁ?でも、あっちの世界には、月姫はいないから、お兄さんは行きたくないんじゃないかな?」
それはそうだろう。私も、両親も、友人も・・・こちらの世界にいるのだから、あちらの世界にはいない。
もしもそこが楽園だとしても、行きたいとは思わないだろう。




