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リバース・ワールド・クリエーション  作者: 冷やしヒヤシンス
六章 魔女大戦
87/89

12.魔女大戦裏

 

 ◎


 ――裏・南木市上空、虹色に雲が蠢いていた。太陽の後光のように放射状に広がる錦が囲んでいるのは裏世界を騒がす破壊と魔法の権化"魔女殺し"だ。


 さらに外側に七人の魔女が円をなして等間隔に並んでいる。各々の色合いは異なり、極彩色を表す。

 "魔女殺し"は全方位に殺意を撒き散らして魔法の燐光を発露した。


 裏世界を震撼させる大いなる戦いが始まろうとしていた。



 ◎


 ――魔女大戦を見届けたいところだが、俺にはやるべきことがある。

 誰もいなくなったマンションの一室、静か過ぎて落ち着かない。たったの一週間、楽しい居候生活だっただけに郷愁にあてられた。


「女好きだよな、俺……いや、男全般に言えるけど」


 思い出に浸るのも早々に切り上げて踵を返して部屋を出る。

 魔女達の戦いにおいて俺にできることはない。その間はヒロインの如く手を組んで待っていようかと思っていたのだが、ミミーに呼び出されたのだ。

 集合場所は日本の玄関、首都空港である。電車を三回乗り継いで辿り着いた。


「久し振りに来たな……」


 長々しいエスカレーターで地上に上がり、搭乗ゲートに出る。予定時間よりも早く着いたので土産屋でも覗くことにした。

 適当に時間を潰したところで、展望台へと向かう。ゲージに囲まれた広々とした空間に日差しが降り注いでいる。


「おっす、結城君」

「……久し振りだな、ミミー」


 いうもより大人びた服装を着ているので一瞬誰かわからなかったが、彼女は確かにミミーである。女子高生は本当に大人に見える。


「いつになくお洒落してるのな」

「そういう君はいつも通りじゃん。見たことある格好だし」

「居候してたあの時が懐かしいな。で、どうしてわざわざここに呼び出したんだ? 高飛びか? 俺にできることはなさそうだが」

「高飛びしないよ、結城君じゃあるまいし。移動に関して都合が良かったの」

「飛行機ですか……」

「ううん、高速」


 空港まで来て車移動とはあり得ない、とは言えないな。しかし、高速道路というとフォースと一緒に行った海のことを思い出す。

 ろくな旅ではなかった。

 ミミーが呼び出したというならきっとろくな旅ではない。


「まぁ、良いか。ここまで来たんだ最後まで付き合おう」

「内容聞かなくて良いの?」

「暇だからな」

「……理由が狂ってるね。借りを作れる、とかならまだしも暇潰しは倫理観崩壊しているんじゃないの?」

「急速にやる気がなくなっていく」

「――勿論嘘だけどね? そういうところ好きだよ?」


 雑なフォローだ。好き、と言えば男子高校生が喜ぶとでも思っているのか? ちょっとドキドキしたけども。

 一も二もなく頷いたということで俺はミミーと同行する。エレベーターに乗り、駐車場へと向かった。


「一体どこに向かうんだ?」

「少し時間が掛かるんだけど――」


 ――目的地は関東を出て、少し上の小原県とのこと。正確には県庁所在地のある市にある"橋"らしい。

 曰く付きの場所なのかと思ったらそうではないようだ。


「怪異関係か?」

「違うかな。誰でも見えるらしいから……でも、不気味さは幽霊とかと張るみたい」

「ホラーは多分苦手なんだよな」

「多分って何」

「逃げ続けてたから実際はどうかわからないんだ」

「馬鹿な理由だった」

「酷い言い種だな」


 エレベーターを上がり、立体駐車場に出た。太陽光が入らず、風だけが吹き抜けるのでかなり肌寒い。

 ミミーに着いていくと、六人乗りの車の前で足を止めた。

 既に中に二人が座っている。


「ちょっと飲み物買ってきて良いかな?」

「途中、パーキングエリアに止まるとは思うけどね。じゃあ、お茶をお願い」

「ナチュラルにパシるなよ……まぁ、今回は許すが」

「結城君って何か妙に優しいよね……気遣いができるとかじゃ全くないのに」

「自覚はある。理由はあるよ」


 口に出すことも憚られる愚かな理由だが。


「しかし、意外に交友は広いんだな。ラバーズも解散して、素数連合も潰れたっていうのに」

「誰かと仲良くするのも私の役目だったから……ツンケンとかにはとてもできそうにないし」

「まぁ、な……ともかく、行こうか」


 湿った雰囲気になりそうだったので断ち切って、車内に侵入する。運転席、助手席に座る青年達がこちらを振り向いた。

 ミミーが俺を奥に押し込みながら言う。


「彼が"劣悪金属ラスト・メタル"です」

「何か、普通だな。雰囲気がないっつーか」


 運転席に腰掛けた金髪の男が俺をジロジロと見ながら呟いている。


「彼は"ナッカさん"です。で、隣は"ヘイホーさん"です」

「よろしく」とだけ言ってヘイホーさんとやらは前を向いた。

 中二ネームじゃないだけマシかもしれないが、あんまりな呼び名である。ナッカさんとヘイホーさん。ウィオー、とか言って甲羅とか投げてきそうだな。


「じゃ、とりあえず出発するか。ミミー、"劣悪金属"に説明頼むわ」

「あの、ラスト★メタルではなく結城と呼んで欲しいのですが。痛々しいので」

「結城って本名か?」

「はい」

「……確かに痛々しいよな。わかった、じゃ、結城で」


 チャラい見た目をしているが、話がわかる奴らしい。

 なるほど、優男系か。

 車が発進し、螺旋のスロープ下りて階層を下げ始めた。よくもまぁ、こんな複雑な構造の道を迷わず進めるものだ――なんて感嘆していると肩をつつかれた。


「何だ?」

「ちょっとしばらく暇なのでイチャイチャしない?」

「何を言っているんだ? ほんの僅か一瞬、動揺して声が出なかったぞ。説明してくれるんじゃないのか?」

「それはしたじゃん」


 幽霊っぽい幽霊ではない何かが橋に現れることしか聞いていないんだが。目的が討伐ならそれで十分とはとても言えない。


「思春期の情動が抑えられない気持ちはわからなくもないが、俺にそのつもりはないぞ?」


 そう言うと運転席から「ははっ」という声が聞こえてきた。すると、ミミーがわざとらしく頬を膨らませた。


「もっと言い方ってものがないの?」

「遠回りに言っても仕方ないだろ。俺で欲求不満を解消するのは諦めてくれ」

「そういえば付き合ってる人がいるんだっけ? いや、皆と……」


 ミミーは居候のことを知っている。一時的とは言え、水連ちゃんや円ちゃんとも共同生活をしていた。あの人のことを知らなくて良かった、と思う。


「もっと建設的な話をしよう。例えば、魔女殺しのこととか」

「進展でもあるの? ストーカーされてるとか言ってたけど」

「無事解決しそうだよ、今日には」

「…………」


 ミミーが無表情を浮かべて俺を見詰める。何を考えているか一切わからかい。女子コワーイ。

 七人の魔女のことは伏せておいた方が良さそうだが、いつ察してもおかしくないくらいの情報は持っている。


「結城君……」

「その名前だけ呼んで圧掛けるの止めて、怖いから」

「色々動いていたことは知ってるから深くは訊かないけどさ、ちょっと落ち着いた方が良いんじゃない?」

「そのために色々小細工してるんだがな」


 それに今回はメンバーを集めただけで実務は魔女に任せている。今までの闘争と比べればだいぶ落ち着いている。

 と、ここで気づく。今までが異常だったことに。


 だが――それは、避けることのできなかった因果でもある。幼馴染が最強の異能使いだった……この因果がある限り、俺が逃げ出すことはできないのだ。


「……多分、これからもっと大変なことになると思う」


 漠然と予感がする。いや、必ず起きる。既に異能者達の因果に巻き込まれてしまったのだ。早いか遅いかの違いでしかない。

 問題はその規模の予測がつかないことだ。


「あまり俺に関わらない方が良いかもしれない。直ぐの話ではないと思うけど」

「私にできることは少ないと思うけど、話聞くくらいはするよ」

「細やかだな」

「気遣いのできる女ですから」



 ◎


 二時間程、高速道路を走った後、車は一般道に出た。それからしばらく真っ直ぐに進んだだけですっかり都文明レベルが落ちた。二〇年前は隆盛を極めていた感じのすっかり錆びた街並みである。

 時刻は夕方になった頃合いだった。


「よし、ここらで時間潰すか」


 車が止まったのはファミリーレストランの駐車場。促されるままに腰を落ち着けた。


「えっと、これは?」

「奴は夜に現れるんだ。だから時間になるまでここで待機するの。って、説明しろよミミー」

「今、言おうとしてたのに」


 ナッカさんの手刀がミミーの頭に下ろされる。兄と妹って感じだ。ヘイホーさんは無口なタイプのようで斜め後ろで居心地悪そうにしていた。

 四人席に座り――隣はミミーだ――メニューを確認する。一般的なファミレスなので大体は揃っている。


「特に惹かれるものはないな」

「夜ご飯も兼ねるんでしっかり食べた方が良いよ」

「……それならこれにしようか」


 ハンバーグ定食とドリンクバーを頼んだ。三人も各々食べたいものを注文した。

 飲み物を容れようと席を立てば、ミミーも着いてくる。


「ファミレスの来たの久し振りなんだよ」

「結構自炊とかしてもんね。無理矢理家事をさせられて大変だったよ」

「それは居候の定めだ」


 一人分も二人分も作る労力は変わらない、とは言うがそれには納得できる。しかし、四人分とかにもなると労力はただ増えるだけになる。俺一人でやるモチベーションはなかったのだ。


 オレンジジュースを注ぐと、彼女は「ほー」と息を漏らした。


「格好つけたりしないタイプ?」

「ブラックコーヒーとか飲む奴か? そりゃないな。というか格好つけてることが相手に察せられた時が一番恥ずかしいじゃん」

「確かに居たたまれないよね」


 と、言いつつミミーはコップに炭酸飲料を注いだ。ガツン、としたものを飲むんだな。

 待っている間に席に視線を巡らさればナッカさんとヘイホーさんが話す姿がある。


「ヘイホーさん? って何者?」

「普通の異能使いですよ」

「いや、名前が」

「車の運転が好きみたいですよ」

「あぁ、そんな理由ね。ナッカさんは本名からかな。中村とか中田とか」

「いえ、元カノの名前らしいですよ」


 いや、偽名なんだから因果関係があるとは限らないけどさ。

 見る限りはミミーの評価通り、普通の異能使いにしか見えない。いや、普通の人間か。

 プライバシーに踏み込むのはマナー違反なのでこれ以上の追及はやめておく。夏休みの岩井塾の件もある、下手に関わって後悔はしたくなかった。


 席に戻り、しばらくして届けられた料理に舌鼓をうって時間を待った。

 初対面の人との時間はいつもより長く感じる。

 退屈と眠気に負けそうになる頃合い、日はすっかり落ちた。


「そろそろ行くか」


 ナッカさんが勘定を持って立ち上がる。

 どうやら払ってくれるらしい。学生に割り勘させる大人なそうそういないとは思うが、ありがたくごちになる。



 ◎


 ――裏世界、天立橋。

 川を挟んだ陸地を繋ぐ鉄筋の橋。

 立っている街頭は手前に一本のみで、向こう側は辛うじて残っている夕陽の光源でしか見えない。

 向かいはすっかり田舎らしく、田んぼ道と森林。

 いかにも妖怪が出そうだが――。


 俺達の他にも天立橋に用がある人がいて雰囲気はぶち壊しだった。


「彼らも?」

「そうみたいね。三〇人はいるかな」


 ミミーは額に手を当てると背伸びして辺りを見回した。


「これ妖怪、出てくるのか? バーベキューでも始めそうな空気だぞ」

「妖怪ではないからね。それに人間を殺す敵だよ」

「敵か。でも、人間じゃないんだよな?」

「そうなんだよね。皆、宇宙人って呼んでる」


 宇宙人か――。

 魔法、超能力、妖術までくればファンタジーは総なめしたと思っていたが、神秘はまだまだ沢山あった。

 新たなジャンルが出てきてもおかしくないか。


「じゃあ、地球外生命体に期待しようか」

「全く呑気だなぁ。お姉さんは心配ですよ」


 ミミーはわざとらしい嘆息を漏らした。

 路駐した車の中でその時を待つ。ヘイホーさんとナッカさんは他の異能者と情報交換に行っている。


 ――もうそろそろ魔女戦争が終わった頃合いか。


 できるなら誰も死者が出ないように終わって欲しい。

 祈っていると車外がやたらとざわめいた。地球外生命体を見たかのような反応だ。


「どうやら現れたみたいね、見に行こうか」

「緊張してきた」


 車を出て細やかな人混みを抜け、真っ直ぐ伸びる錆びた橋を見遣る。

 そこには全身が真っ白な人型が立っていた。

 だが、人間らしさは皆無。

 頭の鶏冠、鰭のある四肢、口裂け女を思わせるピンク色の唇、何も映さない真っ黒な瞳。

 総合して半魚人のような様相。

 宇宙人と言うよりもチュパカブラに近い。


「宇宙人……いや、UMAか」


 掌から白い液体を垂らしている。

 伝った液がアスファルトに落ちると炭酸が抜けるような破裂音と煙が出た。

 道路が溶けている。

 王酸とか硫酸とかそういう類いの異能と思えば抵抗は少ないが――はっきり言って気持ち悪い。


 存在そのものに嫌悪感を抱いてしまう。

 知性があるかも、視界があるかもわからない。

 訳がわからないから怖い。

 コミュニケーション以前に敵だと判断するのも納得してしまう。


「会話はできないのか?」

「できないよ。人を見るとあの溶解液で殺してくるんだもん」

「本当に宇宙人なのか?」

「そんなことわかない。異能でできた生物、というのが順当じゃないの――っと、早速攻撃が始まるみたい」


 三人の男が野次馬の前に出る。

 中央の男が両手を突き出した。ボウッ――と光源が現れる。


「"パイロキネシス"」


 途端、半魚人が独りでに炎上した。

 眩しさに目を逸らしながらも、向こう側を見据える。

 炎の中でも黒い瞳が光っているような気がした。


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